『第二次大戦前夜史 一九三六・一九三七』 仲小路彰 (国書刊行会)
昨日、昭和11年、12年は歴史の転換点だというようなことを書きました。しかし、日本国民は案外明るい未来を展望しており、特に都市部はお祭り気分だったとも書きました。
昭和11年は私の母が生まれた年でもあります。父は5歳。ですからその時の記憶はほとんどありません。時代の空気なんか分かるわけありませんし。
かつて祖父母に聞いたところでは、やはりそれほど暗い雰囲気ではなかったようです。実際、世界恐慌に伴う昭和5年あたりの昭和恐慌からもいち早く脱し、昭和8年以降は一部の農村を除いて好景気だという感触があったようです。
この高橋是清による昭和恐慌という大デフレ脱却政策が、アベノミクスに似ているとの見方もありますが、のちに高橋是清は昭和11年、二・二六事件で暗殺され、日本は戦争へまっしぐら…という、それこそ戦後歴史教育に洗脳された悪意ある解釈ですね。そんな単純な話ではありません。
さて、そのように庶民は好景気に浮かれ、かつての戦争景気の記憶もまだ新しく、ある意味では戦争への期待さえあったとも言えます。そんな中、いったい世界や、世界と直接やりあっていた日本の上層部ではいったい何が起きていたのか。つまり、庶民が知らないうちに、いったい何が進行していたのか。
それが恐ろしいほどによく分かる本が、この仲小路彰による「一九三六」と「一九三七」です。仲小路彰が高嶋辰彦陸軍中佐(当時)の支援を受け、戦争文化研究所の名の下に全121巻の刊行が予定されていた(実際は43巻まで刊行)「世界興廃大戦史」の一部。
昭和16年9月から17年4月までの間に刊行されていますから、間に真珠湾攻撃を挟んでいるわけですね。戦争が始まらんとしているその時に、およそ5年前の世界と日本の動きにその端緒を見ていたのです。
内容としては、今では忘れ去られた事象も取り上げられており、いったい当時どのような情報源をして、ここまで詳細に世界情勢を分析し得たのか。非常に興味がありますね。
実はまだ全部読んでいませんし、読んでも知識が足りないために理解できないでしょう。しかし、現代の研究成果よりも不思議とリアルな感じがするんですよね。情報の選択、そしてそれらの配置の妙は、世界史、特に戦争史を知り尽くした仲小路ならではのものでしょう。
このような本が復刻されたということは、ようやく歴史学の戦後レジームが崩れる時が来たということでしょうか。
一方で、仲小路彰の全貌を俯瞰した立場からしますと、こうした戦前、戦中の著作のみで彼の業績を評価してほしくないというのも事実です。
こうした一見右寄りな活動の先にある、終戦工作、グローバリズム構想、未来学こそが、仲小路彰の「本体」であると、私は思っています。
当然、逆の発想も必要です。つまり、戦後の仲小路彰のみ見ていても、やはりその本質には近づけない。未来から見れば、戦後も戦前も連続した過去であり、またその無限の過去は、その時の「現在」の無限の集合体なのですから。
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