平和を愛する諸国民の公正と信義「に」信頼して
昨日の憲法改正の記事に関連して、ご質問をいただきましたのでお答えします。ご質問とは、憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」の「に」は日本語として不自然ではないかという内容でした。
たしかに、「〜に信頼する」という言い方は、私達にはなじみがありませんね。かつて石原慎太郎さんが「おかしい」と言っていましたし、最近では作家の百田尚樹さんや櫻井よしこさんも同様に「間違っている」「美しくない」というようなことを言っておりました。
これは英語を急いで直訳したためだとも言われますが、ちょっと冷静になってみますと、実は間違いではないということはすぐにわかります。
すなわち、憲法作成当時、「〜に信頼する」という言い方は「あった」ということです。それも比較的普通に用いられていた。
つい70年前のことなのに、その後の日本語を取り巻く環境の変化のために、ほとんど忘れ去られてしまったのです。
今日はあまり専門的に詳しくは書きませんが、とにかくこの「に」をもって、「日本語として間違っている。こんな憲法は改正すべし!」とは言えないということだけは確認しておきたいと思います。
「〜に信頼する」という言い方の例ですが、日本国語大辞典にも次の文が挙がっています。
歩兵操典〔1928〕第一一四「自己の銃剣に信頼し最後の勝利を求むることに勉むへし」
軍隊の教本ですから、ちょっと特殊な例かもしれませんね。堅苦しい言い方。実際、戦前戦中の勅令などでは、よく出てくる表現だったようです(こちら参照)。
かと思うと、実際はそういうわけでもなく、長崎純心大学准教授石井望さんのブログに、一般的な用法がたんと挙げられています。錚々たる書き手たちですね。
もちろん当時も今と同じように「〜を信頼する」という言い方もしていました。やはりどちらかと言うと「に」は漢文訓読調で硬いイメージがあったかもしれません。庶民の口語としては「を」だったのではないでしょうか。
それから「に」と「を」という助詞の本質的な意味からして、「に」の方が「を」よりもやや主体性を欠くイメージがあります。「に信頼する」だと「に頼る」、「を信頼する」だと「を信じる」というように。
あと一つ言うならば、「平和を愛する」のところで「を」を使っているので、続けて「を」は使いたくなかったという心理も働いたかもしれませんね。私たちも文章を書く時、そういうことを気にするじゃないですか。あり得ます。
たしかに現代の私たちにはなじみがないかもしれませんが、当時としてはそれほど不自然ではなかった。実際、発布当時には「おかしい!」という人がいなかったわけです。
そう考えると、石原さんや百田さんという日本語を操る専門家、そして誰よりも日本を愛する櫻井さんが、軽々にあのようなことをおっしゃったのは、ちょっとどうかとも思いますね。
ついでですので、私の感覚としては…蛇足も蛇足ですが…「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」という日本語は、けっこうカッコイイと思います(小さい声で)。
その意味、内容に関する私の意見は、また改めて書きますね。
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