ボリティカル・コレクトネス?
曽野綾子さんが「大人の言葉遣い わからぬ幼稚」というコラムを書いておられました。いわゆるポリティカル・コレクトネスに対する懐疑を主張されていました。
言葉尻をとらえて、そして場合によっては謝罪させることが普通になる社会が、いかに幼稚なのものであるか、心の奥底を表現できない世界がいかに硬直化したものとなるかを述べておられました。
曽野さん、2月だったかの南アに関するエッセイなど、それこそ「政治的」にはちょっと不用意だったかなという言説もありましたが、今回の「言葉狩り」に関する考えには全面的に賛成します。いちおう言葉を専門にしている立場としてです。
「ポリティカル」な世界は、私に言わせてもらえば「コト」世界ですね。法律における言語はそういう性質のものです。あえて言うなら数字、数式に近づけようとしています。ぶれや余白のない絶対言語に近い世界。
一方、私たちが使う「言葉」は、まさに「コトの端」であり、せいぜいそうした絶対世界の端っこをかじるくらい、そのほとんどは曖昧模糊とした、しかし豊かな「モノ」世界が広がっています。
それを、差別だとかいう過剰な「忖度」によって制限することに、私も反対です。
学校現場なんか、本当に最近は堅苦しくなってきています。愛情と信頼に根ざしたコミュニケーションの中には、あえての「悪い言葉」もたくさん存在します。活字にしてしまって、第三者が見れば、とんでもない「いじめ」や「虐待」と取られかねない言葉も日常的に行き交っています。
もちろん、そこにはお互いの関係性があり、そこに至る文脈があり、言語的な意味論を超えた「創造的忖度」があり、肉体的表情もあります。そんな「コト」にはまらない「モノ」があるからこそ、私たちは教育をすることができます。
また、それら「モノ」世界を含む可能性を秘めているのが、まさに言葉の力であり魅力であるわけで、それをまるで法律用語のように、堅苦しく縛ってしまうのは、結局人間の「心」をも縛ってしまう結果になると思います。
英語では「〜マン」という言い方はやめて、「〜パーソン」というようになっていますよね。女性もいるからということでしょう。日本語の「看護師」などと一緒です。
笑い話ですが、それでは「スーパーマン」も「ウルトラマン」も「アンパンマン」もダメなのかということになってしまいますね。
スチュワーデスも今はダメですが、スチュワードという言い方もあったわけで、それはそれでいいような気がするんですが。同様に保母と保父でもいいようにも思います。
なんでも平等、非差別ということになっていくと、結局極端な共産主義国のような「言いたいことが言えない国」「きれいごとだけしか許されない国」になってしまう可能性があります。こわいですよね。
言葉は生き物です。生き物を人間の都合で縛る、制限するということがどういうことか考えておきたいところです。
もちろん、逆に全て自由にというわけにもいかないのは言うまでもありません。野放しではなく、自分の「飼い言葉」として、それなりのしつけをしなければなりませんね。お互いに。
ちなみに、内田樹さんも「政治的に正しいこと」は正しいのか?でポリティカル・コレクトネスに対して鋭い指摘をしています。ぜひご一読を。
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