『教養としての「昭和史」集中講義』 井上寿一 (SB新書)
教科書では語られていない現代への教訓
本当の生きた歴史を学びたいと思いつつ、データ的な知識つめこみに対する反動からか、偽史(古史古伝)や出口王仁三郎の物語、さらには陰謀論などに逃避する傾向があった私が、ここ数年でまたある種の「トンデモ」に出会ってしまい、ではますます迷走するのかと思いきや、いろいろな事情からやっと王道、正道に戻りつつあります。
その、私にとっての最新「トンデモ」は、昨日の記事でも紹介した仲小路彰です。
昨年、日本近現代史の重鎮伊藤隆先生にお会いして仲小路について意見交換をした時、先生は「アブナイ」と言いました。たしかに、仲小路はいろいろな意味で危ないかもしれません。
一つには、その遺した情報の内容が実際「トンデモ」であること、そして、その内容が「トンデモ」で片付けられないような「事実」をも内包しているからです。
前述のように「トンデモ」には全く抵抗がない(免疫がある)、私でもけっこうドン引きするような発見が相次いでいるわけですから、その道の大家としては、今さら火中の栗を拾う必要はないと判断するのかもしれません。分かります。
私は専門家でも大家でもないので、それなりに仲小路的世界に向き合っていく覚悟ですけれども、やはり王道、正道を知らなければ、その正しい評価さえできません。
そういう意味で、最近はそうした王道、正道の、それも最新の研究成果をよく勉強するようにしているわけです。
とは言え、そうしたものはお堅い論文がほとんどでなかなか読む機会がありません。かと言って、本屋に積まれている「日本史ブーム本」の数々は、それこそトンデモな陰謀論か、数十年前の常識の反芻、あるいはある種のイデオロギーを補強するために恣意的に選択され編集された物語であったりして、あまり参考にならないどころか、百害あって一利なしとも言えるアブナイ水域です。
そんな中、学習院大学学長井上寿一先生のこの本は大変素晴らしいと感じました。最新の研究成果、それも単一の視点ではなく、複数の視点を導入し、また、現代の社会状況とのアナロジーを重視して語ってくれているのです。特に、現代との比較によって、私たちシロウトは深い興味と理解を促されます。たとえば、アベノミクス、トランプ現象、シン・ゴジラ、安保法案、憲法改正問題、なんでも反対野党(笑)などなど。
この本の冒頭にある井上さんの言葉を引用します。
歴史とはいわば過去のデータベースですから、それを参照していまの文脈に当てはめてみる。そういうふうに考えれば歴史は無味乾燥なものではなくなります。
言い方を変えると、今日的な関心がなければ、過去にさかのぼる必要はない。歴史を学ぶ意味はないとさえ私自身は思っています。
そうした多様性、重層性、また反復性そこが「歴史の生命」ですよね。お恥ずかしい話ですが、この本によって、ようやく歴史学習の面白さを知りました(マジです)。
特に戦前、戦中、戦後史という、学校ではすっ飛ばしがちなところ、またある種の情報操作によって、近いはずなのに妙に遠かった「近過去」が生き生きと感じられるようになりました。ありがたや。
もちろんこの本は「シロウト」「一般人」向けですから、情報としては表面的かもしれません。しかし、私のように、この本を入り口として、自分につながる生きた近過去の歴史に興味を持ち、自らすすんで学習し、調査する人が増えるといいと思います。
学者さんのお役目の一つがこういうことなのでしょうね。結果として、在野も含めて、歴史研究が進み、本当の意味での「戦後レジームからの脱却」「先の戦争の総括」に歩を進めることができるのでしょう。まさに啓蒙の書だと感じました。
王道、正道知ることによって、ますます「トンデモ」世界に興味が沸いたというのも事実です。その内容が誇大妄想であれ、実際にそれによって多くの人々が動いてしまったのは間違いのない事実ですから。私はそっちの担当が向いているようですし。
Amazon 教養としての「昭和史」集中講義
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