『ジャニーズと日本』 矢野利裕 (講談社現代新書)
昨日の続きともなりましょうか。渡辺和子さんは「置かれた場所で咲きなさい」と言いました。それはSMAPの「世界に一つだけの花」につながると言えます。
渡辺和子さんは父親が背負った「日本の悲劇」からクリスチャンになり、そしてキリスト教に自由と個性と民主主義を見出しました。
ジャニー喜多川さんは、日系二世としてアメリカのエンターテインメント(特にミュージカル…最初はベースボール)を通して、日本人に自由と個性と民主主義を伝えようとしました。
そうした戦後のアメリカ文化受容(もちろん押し付けという反面もあるわけですが)の様子を、特に音楽的な背景を詳細に記述することによって明らかにした本です。とても面白かったし、勉強になりました。一気に読んでしまった。
実は今日、たまたまですが、上の娘が帝国劇場で行われた「ジャニーズ・オールスターズ・アイランド」に行ってきたんですよ。それで大興奮で帰ってきた。なんだか、大好きな永瀬廉くん(と誰か)とハイタッチしただとか…よく分かりませんが(笑)。
娘は午前中、村の厄払い行事に参加してからの上京でしたから、「神様に感謝!」と言っておりました。まあ、間違ってないな。芸能と神事とは深いつながりがあるのが日本ですから。実際、厄払いをした八幡神社には、立派な回り舞台があります。かつてお隣静岡から芸能集団が来たのだとか(非日常のマレビトですね)。
さらに面白かったのは、その舞台の内容です。いや、厄払いじゃなくて、ジャニーズの方。なんでも、戦争中の話、大東亜共栄圏のこととか、硫黄島での玉砕(徹底抗戦)の話とか、戦後の復興、過去と未来の東京オリンピックの話などが満載の内容だったとか。
昨年の舞台も特攻隊の話とか、そういう感じだったそうで、さらに太鼓や三味線の演奏などが繰り広げられたのだとか。
そう、この本でいうところの「ジャパニズム」満開なわけですよ。アメリカ文化を伝えようとしたジャニーさんが行き着いたのが、実は非常に日本的な、ある意味保守的な世界だったというが面白い(インターネットに消極的な商売の姿勢も保守的と言えば保守的ですよね)。
これは日本文化の特徴です。浮世絵とフランスのジャポニスムの関係を挙げるまでもなく、日本というのは「逆輸入」によって自己の価値を知ることが多い。また、外来文化を自由に取り入れつつ、いつのまにか、オリジナルより高度な独自の文化に昇華してしまうのが得意。
そういう意味では、まさにジャニーズ文化というのは、宝塚と同様に、結果として非常に「日本的」な世界を築くに至っているわけですね。面白いことです。
矢野さんが指摘している、日本のアイドル文化は単なる「未成熟」ではないというのは、ある意味では神道的な「常若(とこわか)」の価値観、思想に近いものがあると感じました。
そう、SMAPやTOKIOや嵐が実現した世界観、アイドル像は、世阿弥が風姿花伝の「年来稽古条々」で語った、まさにその年齢なりの「花」に該当すると思います。
そうした、固定概念、社会通念から自由になった「花」のあり方という観点からすると、実は日本はすでに充分に自由や個性を重んじた民主主義の世界であったとも言えましょう。
逆説的になりますが、ジャニー喜多川さんが示してきた、あるいはこれからも示し続けるであろうモノは、実は、日本人が忘れてしまった「純日本的なるもの」なのかもしれません。それはいつものように「外から観た日本」として意識化されるのです。
それもまた、世阿弥の「離見の見」に近いところがある。日本人はいつも大切なモノを忘れてきました。それは決して悪いことではなく、私の言うところの「国譲り」の作法ということになります。無意識化することによって純粋保存する、忘れることによって遺すという最強の作法。
そう考えると、ジャニーズの掟からはみ出して、それぞれの「自我」を発揮してしまいながら「国民的アイドル」となったSMAPという存在と、その解散劇が意味するところが分かってくるように気もします。
そういう視点で戦後を見直すのに、この本は最適だと思います。ジャニーズのみならず、その背後にある音楽的、芸能的、政治的背景が上手にまとめられています。
もしかすると、本当に「戦後」は終わろうとしているのかもれません。そのあたりについて、今私は仲小路彰の戦後対米政策を通して勉強しているところです。アメリカの言いなりになっているように見せかけて実は利用していた…そのあたりについて、ぜひジャニーさんとも話をしたいところです。
Amazon ジャニーズと日本
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