『十字架』 重松清原作・五十嵐匠監督作品
たまっていた録画の一つ。思わず最後まで観てしまいました。
吉川英治文学賞を受賞した重松清の原作を五十嵐匠監督が映画化。いじめをテーマにした作品ということで、教育現場にいるからこその抵抗があったのですが、やはりさすが重松清さん、もちろん単なる「いじめはいけない」的なテーマではなく、もっと深いところを暗く照射しつつ、結局は「生きる」ということを表現していると感じました。
私は原作を読んでいないので、基本、映画作品として観たつもりなのですが、なんというか、そうですねえ、漱石の「こころ」の読後のような残像が残りました。
残された者たち、その「残された」の「れ」はまさに「迷惑の受身」です。迷惑というのが不適切なら、「不本意」とでも言いましょうか。
特に遺書に「残された」人たちの背負う「十字架」は大きい。この作品でも、「こころ」と同じように、「親友」と「好きな人」が苦悩するのです。
しかし、「こころ」と違って救いがあるのは、その十字架を背負うのではなく、その十字架によって「生」の背中や足腰が鍛えられていく過程が描かれているところでしょう。あまりに重い荷物であるために、いつのまにか一体化し、そして普通ではないトレーニングとなっていくわけですね。
個人的には、「好きな人」として名指しされた女性の誕生日が、「ふじしゅん」の命日であることも象徴的でした。そう、昨日の記事では、クリスマスが大正天皇祭だったじゃないですか。そして、イヴは志村忌。天皇誕生日はA級戦犯ら(たとえば私の尊敬する松井石根)の命日。
こうして「死」と「生」が重なり、そして冬至を迎え、年も新生していく。そういう時期なのですね年末は。
そういう意味で、この映画をこのタイミングで観たことには大きな意味がありました。
これは「いじめ」のことだけを表現した作品ではない。「いじめ」は現代的な不本意な死の象徴であり、実は私たちは多くの歴史的な「死」という十字架と一体化して生きていかねばならないというメッセージを放った作品なのです。
五十嵐匠監督の独特の映像感覚にも感心しました。特に、クライマックスとも言えるいくつかのシーンでの、揺れやピンぼけをも厭わないハンディカメラでの長回しは、まさに私たちが「傍観者」になりたいが、しかしなってはいけないということを訴えているようでした。
役者陣の演技も素晴らしかった。演劇的でさえあることによって、ある部分ではリアルさを増し、ある部分ではリアルを超えた象徴的な表現になっていたと思います。
個人的には、高校生の頃大好きだった富田靖子さんが、私と同様にしっかり歳をとって(笑)、見事な母親役を演じているところにホロッとしました。永瀬正敏さんもすごいなあ。
映画好きの下の娘ともう一度観てみようと思います。
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