『山口組分裂と国際金融』 猫組長・渡邉哲也 (徳間書店)
インサイダーが明かすヤクザとカネと世界経済の関係
昨日の三島由紀夫の話の続きともなりましょうか。
三島は「暴力」を肯定しました。それは私の解釈によれば、カネや法といった「近代」の否定の裏返しでした。
私は世の中を理解する時に、あえてですが、「カネ」=「暴力」という等式を使うことが多い。
すなわち、子どもの世界であれば、ある種の「暴力性」を持った強者が弱者から食べ物を取り上げることができるのと同じように、大人の世界では、「カネ」があると食べ物にありつけるということです。
もちろん、それは食べ物に限りません。全ての本能を満たすためには、子どもは「暴力」、大人は「カネ」が必要です(あえて極論しています)。
そう考えると、この本で語られている「ヤクザ」と「カネ」の話は分かりやすくなりますね。ただ、面白いのは、(単なる暴力団ではない本来の)「ヤクザ」にはルールがある。任侠道というルールがあるのに対し、「カネ」の世界、実体経済ではない現代的な「国際金融」の世界はノールールです。
「弱きを助け強きを挫く」というルールがあるかないか。これは非常に重要な分岐点です。近代合理主義は、そうした保守的な、人間としての信仰心に近い「情」を排除して成り立ちます。結局のところ唯物論なのですね。
このたびの山口組の分裂が、結局のところ、そうした分岐だったのいうのは知りませんでした。近代合理主義的な六代目山口組と、保守本流で「ヤクザ」回帰を目指す神戸山口組。
こうしたお互いの軋轢に見られる苦悩は、まさに三島が直面したものと同じではないでしょうか。あえて乱暴に言うならば、三島が神戸山口組で、あの時の自衛隊は六代目側だったと。
もちろん歴史は単純にはくり返しません。この分裂騒動の結末がどうなるか分かりません。ただ、世界の動きが、経済にせよ、政治にせよ、反グローバリズムの方向に向かっているのは事実です。
私は、今の世界の動きを、単純に「グローバリズム」に対する「ナショナリズム」の反撃とは捉えたくありません。そうした二元論的な対立軸で世界を捉える時代こそが終わりつつあると思うからです。
そう考えますと、この山口組の分裂は一つの「雛型」になる可能性もありますね。神に近い世界での「物語」ですから。
700年間北朝と南朝に分裂したままの天皇家と、このたびの譲位の問題もまた、それに関わっているかもしれない。
つまり、これからは対立によって結果(勝敗)を決めるのではなく、実際的な意味での弁証法的な方法によって、すなわち融合や統合、止揚、昇華といった形での結果を求められる時代になるのかもしれません。いや、きっとそうです。
そういう意味で、今後の山口組と神戸山口組の動きには注目していきたいと思っています。
それにしても、この本は面白かった。戦後の経済史の復習、最新経済の勉強にもなりますし、ヤクザ史としても実に学ぶところが多かった。
そして、何と言っても、私の「カネ」=「暴力」という、思考の前提がそれほど間違っていなかったということを確認させてくれたことが嬉しかった。
続編として半分冗談で予告されている「ヤクザと石油」もぜひ読んでみたいですね。
いつもながらの渡邉哲也さんの分かりやすい(優しい)解説と、博識かつ冷静な猫組長の重厚な語りに感謝です。
Amazon 山口組分裂と国際金融
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コメント
ありがとうございます。渡邉拝
投稿: 渡邉哲也 | 2016.12.26 16:18