『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』 若松孝二監督作品
たまっていた録画の一つ。観てしまいました。私は実は三島由紀夫が苦手でして、その理由が分からず変に苦悩してまいりました。
最近、その答が分かった気がするんですよね。というのは、例の仲小路彰が三島の死について、当時いくつかの文章を残しているのです。それを読んで、なるほどそうかと思ったわけです。
たとえば、三島の死の一週間後に、仲小路彰は「三島の死の象徴的意味ー彼の死の後に来るものー」という文章を書いていますが、そこで展開される三島批判はかなり辛辣です。
三島の生い立ちや性情における問題点、彼の文学における偽善性、あるいはロシア文学を知らなすぎたこと、哲学が浅いこと、また、愛国心や国防の本質を見誤ったことなどを、かなり厳しく批評しています。
しかし、なんと言っても次の一文が、私の三島への違和感を最も的確に裏付けてくれていると思います。
「彼の死は未来に開かれたものではなく、かすかでも未来からひびく声に応じたものでもなく、まさに亡びゆく過去なるものへの対決であり、その絶対的否定にあった」
また、仲小路は三島の文学を「彼の創作は二・二六にはじまり、そして二・二六に終わったとも云える」としています。二・二六事件の当事者に(霊的に)深く関わった私からすると、やはり三島の死によって何かが解決したとは思えないのです。
英霊という言葉を重々しく、しかしある意味乱暴に使うことに、私は何度も反対してきました。三島や私たちが英霊という時、そこには私たちの勝手な画一化があるからです。実際の英霊は数百万あり、そして、その一つ一つが結論を出せずにいることを思うと、その無限に近い多様性を暴力的に一言でまとめてしまうのは、結局私たち自身の満足のためにほかなりません。
この映画を観て、やはり三島は間違っていたと再確認しました。彼の求めた「革命」もまた、あくまで自己を規定する存在としての「社会」の破壊、すなわち結局は自分のためだったということになるのかもしれません。
私は…あくまでも個人的な感情レベルでの話ですが…あの演説の時の自衛隊員たちの態度は正しかったと思います。
三島のごく個人的な思いで、「社会」が変革されてはたまりません。結果として、社会は残酷なほどふわふわとして刀では切れない存在だったのです。だから、元来の目的的に考えてもう一つの、唯一の破壊方法である自刃しか選択肢はなくなってしまったのです。
なんともうすら寒い風が吹いただけで終わってしまった三島事件でありました。本気だったからこその薄ら寒さ。そのなんとも言えないを若松孝二監督は見事に表現し、作品化していると感じました。
あっそうだ、有名な演説シーン、なんか記憶にある光景(デザイン)だなあと思ったら、静岡市役所での撮影だったんですね。
安藤輝三の眠る静岡市でこのシーンが撮られたというのも、何かの因縁かもしれません。
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