吉田秀雄と鬼十則
なんだかなあ…というニュース。電通が来年度の社員手帳からあの「鬼十則」を削除するとのこと。
いろいろな意味でため息が出ますね。亡くなった方がいるので、あまり軽々しくは言えませんが、こうして昭和が終わっていくんだなという感慨。
昭和と言ってもいろいろな側面があります。もちろん、ノスタルジックな「漢」の代表格、吉田秀雄の遺訓が本場から消えるという寂しさという一面もあれば、GHQ主導の電通の創立と繁栄という「戦後」が終わるという、ある種明るい感慨もある。
私は広告という世界が好きですし、中でも吉田秀雄については、日本プロレスとの関係、すなわち正力松太郎との関係、さらには山梨出身の小林一三との関係などもあって、格別な興味を持っておりました。
下の画像は、「鬼十則」を新聞で見た小林一三が、大いに共感感激し、「謹賀新年 今日、毎日の夕刊にて貴下に関する記事を拝見しました。ついては、その「鬼十則」なるもの 全部同感にて老生も東宝の若い連中に受け売りしたいと思いますから、原稿紙でも色紙でもよろしいから、 御自筆一枚頂戴いたし度い。新年早々吉報お待ち申し上げます。おねがいまで。」という賀状を送ったの対して、吉田が書き記して返送したものです。
あらためて活字にしてみましょうか。
1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
2. 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
6. 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
私も好きですね。これのどこが悪いのでしょう。言葉をそのまま受け取って、ああだこうだ言うほど、我々の文学センスは退化してしまったのでしょうか。電通の内部ですらそうなんですから、いわんや我々一般大衆をや。
万葉集研究の大家であった中西進先生が、この「鬼十則」にほれこみ、そのエッセンスを「狙え。放すな。ひきずれ」という「鬼三則」に要約したのは、さすが文学の人という感じがしますよね。
吉田秀雄は「広告は科学であり、芸術である。科学と芸術の融合活動である」と言いました。全く同意ですし、実に素晴らしい文化的な、それも日本文化的な世界観だと思います。
「鬼十則」、電通さんが使わないなら、私が使わせていただきますね(笑)。
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