『天河伝説殺人事件』 市川崑監督作品
3日連続のミステリー作品鑑賞。再び市川崑作品。
よく言われるように、テイストとしては完全に金田一耕助の延長線上。娘たちなんか、いつ金田一が登場するのかまじめに推理していました(笑)。
市川監督は老いてますます盛んという感じで、全く衰えを感じさせませんね。パブル期の作品でありながら、全体として落ち着きがあり、重厚さが際立っています。
バブルな都会ともののけ的な田舎との対比がいいのでしょうかね。あるいは対比ではなくて、共通性なのかもしれませんし。
ストーリー的にも、人間ドラマとして楽しめました。
昨日書いたように、「君の名は。」を酷評した私は、明らかに古い「リアリズム」を映画に求める人間。あえて時代に迎合するつもりはありませんが、しかし、この「天河伝説殺人事件」を観て、本質的なことに気づいてしまったので、それを書いておきます。
言うまでもなく、この作品の中核にあるのは「能」です。教え子が能楽師になり、娘が能楽部に入部したこともあって、ここ10年くらいでようやく能の面白さが分かるようになった私。
そう、まさに能こそ「夢幻」世界。近代的リアリズムからすると、まさにツッコミどころ満載。能が分からなかった頃の私は、つまり近代的なリアリズムを求めていたわけですよ。
もちろん、かたや少年時代からプロレスが好きだったりして、そういうリアリズムとは別の「脳内リアリズム」も欲するところはあったわけですが、へたに演劇にちょっと関わったりしたからでしょうか、舞台への感情移入には、そういう近代的リアリズムを必要とする体になってしまっていたんですよね。
それが能を知ることによって、ようやく解放された。開放とも言える。
では、映画やドラマやアニメはどうなのか。いや、やっぱり「映画館で観る映画」に求めるものと限定した方がいいのかな。
たとえば「君の名は。」をTVアニメとして観たら、それなりに面白がれたのかもしれない。そんな気もします。
つまり、「君の名は。」に感動できなかった私の構造にこそ問題があったのではないかと思ったのです。
思えば、小津映画なんかも、最初はずいぶん違和感を抱きました。それが、いつのまにやら、心も体も完全に虜になってしまった。やはり、こちら側の解放があったのでしょう。
単に「まだ慣れていない」ということかもしれませんね。旧弊から抜け出すためには、やはり進取なものに慣れていかねばならない。
「君の名は。」に62点つけた私ですが、それはそのまま私自身への採点だったのかもしれません。
まだまだ人生、楽しめそうですな。ありがたいことです。
Amazon 天河伝説殺人事件
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- Style2030 賢者が映す未来〜竹倉史人 (BS-TBS)(2023.05.14)
- 追悼 のっぽさん(2023.05.11)
- 『オスカー・ピーターソン ジャズ界の革命児』 バリー・アヴリッチ監督作品(2023.05.07)
- バブル崩壊前夜…日興証券のCM(1990)「インベストメント・テクノロジー」(2023.05.05)
- 富田靖子 『思春期・前期』(2023.05.04)
「心と体」カテゴリの記事
- トレバー・バウアーの動画に救われる(2023.05.29)
- BossB 『全てのビジネスは”宇宙思考”に学べ』(2023.05.25)
- 木内鶴彦さんとナオキマンの対談(2023.05.22)
- Style2030 賢者が映す未来〜竹倉史人 (BS-TBS)(2023.05.14)
- 『ビューティフル・マインド』 ロン・ハワード監督作品(2023.05.02)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 『江戸にゃんこ 浮世絵ネコづくし』 太田記念美術館(2023.05.18)
- Style2030 賢者が映す未来〜竹倉史人 (BS-TBS)(2023.05.14)
- ジャンボ鶴田 大技集(2023.05.13)
- 追悼 のっぽさん(2023.05.11)
- オスカー・ピーターソン 『ラヴ・バラード』(2023.05.08)
「旅行・地域」カテゴリの記事
- 英語の語源が身につくラジオ(堀田隆一)(2023.05.17)
- 物件ファン(2023.05.16)
- ベイスターズ 劇的サヨナラ勝ち!(2023.04.27)
- 柳沢正文 vs 落合陽一 『睡眠の謎』(2023.04.26)
- 若者との対話 in 石和・甲府(2023.04.25)
コメント