聖戦と言葉
相模原の事件、本当に胸が痛みます。お亡くなりになった方々とそのご家族に心よりお悔やみ申し上げます。辛いですね。
ここのところ欧米で自爆テロなどの無差別殺人事件が多発しておりました。それも対岸の火事ではないなと思っておりましたところ、全くその背景は違うとは言え、日本でもこうした恐るべき事件が発生してしまったこと、本当に残念であり、また驚きとともに震撼しないではいられません。
全くその背景は違うと、先ほど書いたばかりですが、あえて今日はそれらのつなぐことのできる次元で考えてみたいと思います。
このたびの事件の犯人の名前が「聖」だというのは、なんとも皮肉でありますが、ある意味、彼の動機、また行為は「聖戦」の理論と重なる部分があると感じます。
もちろん私は、いかなる「聖戦」も「戦」であるかぎり、その悲劇に道義的な意味を見出す者ではありません。歴史的な文脈はありえますが、やはり人道的にあってはならないものであると捉えます。
「戦」に「聖」をつけることによって、まるで人道の上にあるサムシング・グレートの意志を我々人間が引き受けて行為するような理論は、とても受け入れられません。
それは、たとえばこの日本の近過去における「皇戦」…これは仲小路彰も使った言葉ですが…も、理解はできますが、納得、全面肯定はできません。
そういうスタンスであることを確認した上で、あえて申すなら、相模原の事件の犯人も、自らの「聖戦」の理論の中で「正しい」行いをしたと考えていると思われます。
彼の理屈をここで言葉にするのも憚られるで、それは割愛しますが、もしマスコミの報道、あるいは衆議院議長に寄せた手紙の内容が彼の真意だとするならば、これはやはり「聖戦」の理論、いや理論なんていう筋の通ったものではなく、いわば「方便」、もっと本質的に言ってしまえば「言い訳」のようなものに則っているなと感じるのです。
しかし、それを私たちは「信じられない」「自分には関係がない」とは言い切れない。私たちにもそういう「言い訳」は常に存在しています。
たとえば、害虫は殺虫剤で駆除しても許されると思っていますね。今回の事件とそれを重ねることを不謹慎と言う方もいらっしゃるでしょう。しかし、現実に、次元は違えども発想の根本は同じなのです。そこを直視する必要があります。
そうした思考と行動の元となる言語が、人間社会における一般性を持っているか否かで、その行為に対する人道的(それは法的でもある)評価はすっかり変わってしまいます。
そうした人間と言語の関係性の中にある、使用者としての「恣意性」に留意するべきだと思うのです。私たちはあまりに身勝手なのです。
ISの主張は、理屈としては理解できます。彼らの信じる世界の言語の中では、十分に理論的であり正しいものです。
しかし、恐ろしいのは、そうした言語、言葉というもの自体が、もともと抽象(四捨五入)という機能を持っていることです。別の言い方をすれば、この混沌とした世界に、それぞれの言語において勝手に境界線を引くということです。
その境界線を引くという機能が、結局その使用者を排他的にしたり、あるいはその境界線の内側の領域でしか思考できない「井の中の蛙」を生み出す可能性があるわけですね。
そういう言葉の牢獄に入った人々には、外界の声は届きませんし、届いたとしても理解できません。
今回の事件でも、犯人は自らの直感を言語化する中で、彼なりの「聖戦」を構想するようになったのでしょう。
世界で起きているテロや、異常としか思えない凶悪犯罪の背後に、そうした言語の持つ閉鎖性、自己凝集性があることに気づかねばなりません。
では、そこから抜け出すには、あるいは抜け出させるにはどうしたよいのか。これは難しい問題です。ブラックホールから脱出するのと同じくらい難しいのかもしれません。
私はオウムの事件を身近で目の当たりにしてから、そのことを強く感じ、考えるようになりました。
言葉によるある種の洗脳を解くには、言葉もってするしかないのか。だとしたら、事が起こる前にどのようそれを実現するればよいのか(事後では時間をかけてそれを実現することは可能です)。
コンピュータのように簡単に言語(記憶)をリセットするわけにもいきません。手にしてしまった諸刃の剣を、いかに使いこなすか。教育の現場にいる者としても大変悩むところであります。
以前もどこかで書いたとおり、カネ(貨幣)とコトバ(言語)は「コト」の代表格です。人間が脳ミソで発明した情報にすぎないはずの両者が、結局人間を、この世界を支配してしまい、私たちはいつの間にか、その中で、その下で思考、行動するようになっている。
今、様々な「聖戦」に対面し、私たちは「コト」をどのように超越してゆくのか、「モノ(自然)」の持つ多様性、生命力に回帰するのか。
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