『叛乱』 (佐分利信監督作品)
先日夫婦で鑑賞いたしました。いくつか二・二六事件に関する映画を観てきましたが、今までで一番いい作品だと思いました。
ある意味淡々と歴史的な事実に則ってストーリーが展開していきます。最初と最後が処刑のシーンであって、中身のほとんどは回想シーンであるとも言えますが。
昭和29年の作品。佐分利信が監督ということになっていますが、途中佐分利は病に倒れ、彼を補佐した複数の人間の監督代行によって完成しました。
しかし、面白いもので、全体としては佐分利信らしい重厚な印象を与える出来になっており、不自然な感じは全くしません。
二・二六事件自体が、数日のうちになんともテンションの下がる展開になっていくため、物語としても緊張感を持続するのが難しい。その点、この映画はよく頑張ったと思います。
そう、そのなんとも言えないテンションの下がり方にこそ、この事件の悲劇があり、ある意味では、そのテンションが最低に落ちるのが、まさに処刑のシーンという言い方もできるわけで、これがたとえば西洋での事件だとすると、こうして作品化されるようなことはなく、単なるクーデター大失敗事件として記憶されるだけになったことでしょう。
もちろん、そうした見方に異論のある方もいらっしゃるでしょうけれども、昨年から「直接的」にこの事件に関わることになった私たち夫婦からしますと、まさにその「え〜」というテンションを思いっきり下げてしまう運命の不随意性こそが、日本的な「もののあはれ」であり、救いようのない切なさという魅力そのものになっていると感じるのです。
正直、そうした運命に翻弄されたご本人たちの魂は…それは加害者、被害者という区別を超えてですが…、事件から80年経った今でも、その「未来的な意味」が掴めないまま、この現代に浮遊してしまっているのです。
この映画では、主役と言っていい安藤輝三を演じている細川俊夫がGJです。まさにそうした浮遊の運命を予感させる安藤の苦悩。その予感は的中してしまったわけですよね。それを淡々と表現しています。
他の青年将校とは違い、非常に聡明かつ冷静、そして直観力や愛に溢れた安藤輝三は、たしかにこうして苦悩したのでしょう。そして、自害にも失敗してしまう。辛いですね。
今年の7月12日、そんな安藤らが処刑されてからちょうど80年になります。その日にいったい何が起きるのか。なんとか彼らの「浮遊」を終わりにしてさしあげたいものです。
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