「つなぐ」と「つなげる」
昨日のレミオロメンの「3月9日」の動画の最後、「彼らにとってライヴとは…繋がり」とありました。それにもまさに「つながる」話であります。
この前、Twitterを眺めていたら、某新聞記者の方がこちらの記事を引用して、「つなげる」を「つなげられる」のら抜き言葉?とつぶやいていました。
なるほど、この記事の「とにかく色々なものをつなげる」という文章における「つなげる」は「つなぐことができる」という意味、すなわち「つなぐ」の可能動詞の「つなげる」ですね。だからら抜き言葉ではない。正しい日本語です。
そう、実は非常にややっこしい問題があるのですね、この言葉には。
たとえば「機器をつなぐ」「機器をつなげる」はほとんど同じ意味だとも取れます。もちろん頭をスイッチすると、上掲記事の文章のように「機器をつなげる」は「機器をつなぐことができる」というふうに感じてしまうわけですが、今は可能動詞は置いておきましょう。
「絆をつなぐ」「絆をつなげる」も両方あり得ます(なんとなく「つなぐ」の方がいいような気がしますが)。
しかし、「手をつなぐ」とは言うけれども「手をつなげる」は不自然な感じがする。可能動詞としてしか捉えられない。不思議ですね。
では、打ち消しで「機器をつなげない」と言うとどうでしょう。これは不可能と捉えられることが多くなりそうです。つまり、可能動詞「つなげる」に打ち消し「ない」がついたと感じるわけです。
「手をつなげない」も不可能っぽいし、「絆をつなげない」も…なんか微妙だな。
ま、とにかくそういう不思議なことが起きるわけです。わけが分からなくなってしまう。
一方、「絆をつないでいく」「絆をつなげていく」は同じ意味にしか捉えられません。誰かにスマホの充電を頼むとしましょう。「充電器つないどいて」と言いますよね。しかし、「充電器つなげといて」とはあまり言いません…と思って、娘に聞いたら「つなげといて」だって(笑)。
「切れたリボンをつないどいて」を「切れたリボンをつなげといて」と言えるでしょうか。これは両方言えますよね。
「点と点をつなぎなさい」とは言うけれども『点と点をつなげなさい」とは言わないような気がします。
「つなげよう、心の絆」「つなごう、心の絆」はどうでしょう。
…と、いろいろなパターンがあって、人によって使い方、感じ方が違うのです。
なぜこういうことが起きたのか、実はよく分からない部分もあるのですが、簡単にまとめておきます。
まず、現代語では「connect」の意味の日本語として「つなぐ(五段活用)」と「つなげる(下一段活用)」両方が使われています。辞書的にはほぼ同じ意味。
ただ、上に書いたように、微妙な使い分けもありそうです。カミさんに言わせると、connect自体が目的だと「つなぐ」、connectしてその先の何か別の目的がある時は「つなげる」だそうな。なんかそれもあるような気がします。
さらに「つなげる」には「connect」と「can connect」の二つの意味があるということ。つまり、上の例のごとく可能動詞「つなげる」もあります。
ちなみに古語には「つなぐ」しかありません。四段活用です。「つながず」「つなぎて」…となります。「つなぐ」と同義の「つなげる」は、明治時代になって使われ始めました。
なぜ、「つなぐ」だけでなく「つなげる」が生まれたのか。これは謎です。たしかに、「捧ぐ」→「捧げる」、「欠く」→「欠ける」、「負く」→「負ける」のように古語の下二段活用が現代語の下一段活用になることは普通ですが、「つなぐ」は四段活用ですからね。
昔、こちらに書いたとおり、たとえば「立つ」「立てる」のように、活用の違いによって、自動詞と他動詞の区別をする場合がありますが、「つなぐ」と「つなげる」は両方とも他動詞ですからね。
あっ、今思いついたのですが、「間違う」と「間違える」は同じ意味で五段活用と下一段活用ですね。しかし、これはもともとは「ちがふ」と「ちがへる」で、自動詞と他動詞の区別があるので、「つなぐ」とはちょっと違う成立事情がありますね。
ちなみに名詞形は「つなぎ」ですね。やはり古い「つなぐ」の連用形であって、「つなげ」とは絶対に言いません。
そして、上に書いたように(そして「立てる」と同じように)「つけげる」には可能動詞もある。こうなると、非常に複雑で、何がなんだか分からなくなってきます。
しかし、引用した記事のように「connect」なのか「can connect」なのか一瞬迷うような使い方はやめた方がいいということですね。やはりプロのライターとしては「つなぐことができる」と表現すべきだったのではないでしょうか。
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