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2016.01.09

「請務其本」=基本を大切に

09_17_46_05 年も入試の季節がやってきました。送り出す方、迎える方ともに忙しくなってまいりました。
 今日は我が富士学苑中学校の推薦入試。毎年書いているように、国語の問題の本文は自分で書いています。ひとの文章から問題作るのは大変ですから。たくさん本を読まなければならないし、小学生向けの文章はなかなかないし、最近は著作権の問題が面倒だし。じゃあ、自分で書いたほうがずっと楽だし、思い入れをもって受験生にメッセージを送れる。
 なんで、大学の先生も含めて、世の中の国語の先生方は私のようにしないのでしょうかね。絶対いいですよ。
 というわけで、今年の文章もまた公開します。大した文ではありませんが、よろしかったらお読みください。
 今気づきましたが、2008年に「請務其本」という記事を書いていました。そして、中学校開校の日の記事にもこの言葉が登場していました。

    「請務其本」

 「その本を務めよう」…富士学苑高校の正門に掲げられている言葉です。
 いったいどういう意味なのでしょう…えっ? 聞いたこともないし、わからないって? いえいえ、大丈夫ですよ。「意味を答えなさい」などという問題は出ませんから。
 本当のところ、富士学苑の中学生や高校生はもちろん、もしかすると先生たちでさえ、完全にはその意味を理解していないかもしれません。
 とても短い言葉ですが、だからこそ難しいのです。今日はその意味を、この文章の中でみなさんといっしょに考えていきましょう。
 この言葉は、あるお坊さんが亡くなる前に残したものです。そのお坊さんの名前は関山慧玄さん。鎌倉時代の末に生まれた人です。
 富士学苑中学・高等学校の母体となっている月江寺というお寺は知っていますよね。その月江寺が属しているお寺のグループがあって、そのグループのトップに位置するのが、京都の妙心寺という大きなお寺です。その妙心寺を作った方が関山慧玄さん。
 そんな立派なお坊さんが一生けん命修行して、ときの天皇に尊敬されるまでになって、そして亡くなる前に弟子たちに語った言葉だというのですから、きっと深い意味があるのでしょうね。
 先ほど、とても短い言葉だと書きましたが、もともとは漢文(古い中国語の文)で「請務其本」と書かれています(「請う其の本を務めよ」と読みます)。たった漢字四文字です。その四文字に慧玄さんはいったいどんな思いをこめたのでしょうか。一文字ずつじっくり見ていきましょう。
 「請」…この字は小学校で習わないようですね。しかし、「請求書」という言葉はどこかで見たこと、聞いたことがあるのではないでしょうか。そう、何かを売った時に、相手に◯◯円払って下さいと求める書類のことですね。これをもらったら、買った人はちゃんと◯◯円払わないといけません。「請」という漢字も、また「請う」という日本語の動詞も「求める」という意味なのです。
 では何を「求める」のか。それはその下の三文字の内容です。一文字ずつ見ていきましょう。
 まず、「務」という漢字があります。この字は五年生で習ったはずです。「つとめる」と読む漢字はいくつかありますが、これは「はげむ」という意味の漢字です。つまり、「請務」で「はげむことを求める」となります。
 では、今度は何に「はげむ」のか。「務」の次の字を見てみましょう。
 「其」ですね。「その」と読んでいます。これはみなさんがよく知っていて、よく使っている「その」と、基本的には同じ意味です。指示語ですね。ただし、ここでは特定の言葉を指し示しているわけではなく、「何かの」という程度の意味です。
 そして、最後が「本」。「もと」です。「本」という漢字は、「木」という漢字の下の方に横棒で印をつけたものです。そう、木の下の方、根っこという意味なのですね。ものごとに当てはめると、「基本」という言葉が一番しっくり来るのではないでしょうか。つまり、「其本」で「何かの基本」ということになります。
 さあ、全体をまとめてみましょう。
 「請務其本」=「何かの基本にはげむことを求める」
 そうです、慧玄さんは、亡くなる直前、弟子たちに「何ごとにおいても基本にしっかりはげみなさい」というアドバイスを残したのです。
 この四文字の後には、「葉を摘み、枝を探してはいけない」という意味の言葉が続いています。「葉」や「枝」は基本ではなく、表面や飾《かざ》りということでしょう。つまり、「請務其本」とは、目につく葉や枝ばかりにとらわれず、地中に張った根をしっかり見つめなさいということなのです。
 私たちは、いろいろなことを勉強したり、練習したりして、どんどん成長し自信をつけていきます。しかし、そういう時こそ、目先の点数や勝ち負け、またそのための小手先のテクニックに気を取られがちになります。
 慧玄さんが何十年も修行をして、悩み苦しみ、そして最後に至った境地だからこそ、とても重みのある言葉です。そして、慧玄さんが亡くなってから六百五十年以上たった今でも、こうして伝わっているわけですから、本当にすごいことですね。
 「その本を務めよう」…いつも初心を忘れず、基本に立ち返る…たしかにとても大切なことです。お互いこの言葉をかみしめましょう。


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