追悼 原節子さん 『指導物語』(昭和16年)
原節子さんがお亡くなりになっていたということで、とうとうその日が来てしまったかという感慨にふけっております。
ちょうどこの秋になって、小津作品をいくつか見直し、やはりすごい女優さんだったなあ、この内面から溢れ出る気品と知性、そしてそれに覆い隠されながらも時折顕現する「女性性」はすごいなと。
この美的バランスを持った女優さんは、結局その後現れていません。今、お元気でいらっしゃるのだろうかと、本当に思った矢先の訃報でした。
本当にようやく、ようやくのこと、敬愛する小津安二郎監督のもとに行くことができたのですね。あちらでのお二人のお気持ちを考えると、ちょっと救われるというか、私も安らかな気持ちになります。
今日は、そんな原節子さんのあまり知られていない出演作を紹介いたします。
「指導物語」。この作品は映画ファンというより、鉄道マニアの方の方がよくご存知なのではないでしょうか。
特にSLマニアにはたまらない作品でしょう。現在も静態保存されているC58 217の現役の勇姿が見られるのですから。そして冒頭から218との兄弟並走シーンですからね。記録としても非常に貴重です。
時代的に戦意高揚映画と言える部分もないではないのですが、全体としてはなかなかよくできた人間ドラマとなっていて、ある意味当時の日本映画界のレベルの高さを見せつけられます。
ちなみに、ワタクシとしてはですね、まあちょっとは映画マニア、鉄道マニアな部分もありますけどね、それよりももっとマニアックな観点でこの作品に注目しています。
というのは、冒頭で歌われる「スメラ民の歌」が、どうも仲小路彰の作詞・作曲のようなのです。まだ確認はできていませんが、まず間違いありません。
画面には「スメル音楽研究所」と出てきますが、これは川添紫郎が代表をつとめる音楽サロンで、仲小路彰を中心に、三浦環や原智恵子らが関わっていたようです。ちなみにこの映画の監督である熊谷久虎も仲小路彰に私淑しており、のちに「スメラ学塾」の中心的メンバーともなりました。
そんなわけで、私にとっては、仲小路彰と原節子の接点をこの映画に観るわけであります。そんな視点で観ている人もあんまりいないでしょうけれど、私は気になります。
原さんがどういう思想を持っていたのか。どんな精神性があの美を表出させていたのか。
この映画に出演していた当時、原節子さんは成人したばかりですが、画面で観てお分かりのとおり、大変大人びて見えます。すでに大女優の風格がありますね。
もうこの時代から大活躍しておられたわけですから、たしかに95歳にもなられますよね。原さんにとっては、本当に長い長い戦後が、ようやく終ったのでしょう。ご冥福をお祈りします。
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