言葉は多様性を奪う暴力である
この季節は、戦争に関する言葉が乱舞します。そこでいつも思うこと。言葉は基本的に暴力だなと。
現代日本人は「言霊」という言葉が大好きですよね。しかし、歴史的に見ると「言霊」とはそんな甘っちょろいものではありません。
どちらかというと、相手を呪い殺したり、相手を陥れたりするために使われたことが多い。そういう意味でも、言葉は基本的に暴力であると言えます。
もともと言葉というものは、「モノ」という未分化の自然に境界線を入れて、無理やり人間の都合でグループ化する(コト化する)ための道具です。
たとえば「木」という言葉で考えてみてください。一言で「木」と言っても無数の種類があるはずです。それを暴力性を持って十把一絡げにしてしまう。
少し優しくなって(?)、広葉樹、針葉樹とか、落葉樹、常緑樹とか、もっと優しくなって「松」とか「杉」とか言ったとしても、まだまだ多様性を無視していますよね。
では…と、「アカマツ」と言ったところで、このアカマツと隣のアカマツの違いは無視されています。
さすがに自分の子どもに対してはもっと優しくて、ずいぶん考えて名づけしますけれども、それでも最後にはある種の暴力性を持たねば永遠に決められません。
言葉というのはそういうものなのです。名づけた「モノ」が自分の中で「コト」となる、すなわち他者の奴隷化とも言えるわけです。
言葉は「コトの刃」でもあるのです。
さて、そういう前提の話はこのくらいにして、過去の戦争に関する言葉に、いかなる暴力性が感じられるかといいますと、たとえば「英霊」という言葉、これなど最も暴力的です。
どういうことか。以前、こちらにもちょっと書きました。
今日靖国神社に参拝したと安倍昭恵さんから報告がありました。その前にも知覧を訪れたと。昭恵さんにもお話したことがありますが、「英霊」が約250万祀られているとするならば、その250万とおりの人生、考えがあるわけです。
もし、今その英霊の方々が現代日本を見渡して意見するとするならば、間違いなく多様な意見が出ることでしょう。この平和が素晴らしいとする方もいれば、日本人は骨抜きになったと嘆く方もいる。自ら戦ったあの戦争が間違っていたとする人もいれば、正しかったとする人もいる。そんな単純化さえも許されないほどに多様な言葉が発せられるでしょう。
それを、私たちは最大の優しさという暴力性をもって「英霊」と一括りにし、やれ靖国が好きだ嫌いだなどと言っている。前掲の過去記事に言葉を引用します。
「一口に英霊とは申しますが、本当に多様な思いがあるのです。現代の靖国論議はあまりに矮小化されている。それを論じる個人個人の主体というとんでもなく小さな世界観の衝突によって、大きなモノが危うい方向に動くことを、英霊は正直苦々しく思っておられます。様々な思いは御柱の数だけあるとしても、その不満と危惧は共通しているのです」
まあ、このようにワタクシの言葉で断ずるのも暴力と言えば暴力でありますが、ここはあえて「荒魂」を発動させていただきます。
今日何かで、保阪正康さんが「特攻隊は最大の恥」と言っているのを読みましたが、ずいぶん乱暴だなぁと思いました。
「特攻隊」と一絡げ言いますが、中には本当に大義と誇りを持って今でも「正しかった」と言う隊員もいるでしょうし、いやいや飛び立った隊員もいるでしょう。当時の思いと(もしあるならば)今の思いが違う人もいることでしょう。
恥と言い切ってしまうのも、美化してしまうのも、こちら側の勝手な暴力ですね。
そういう多様性を無視した論議は、私はしたくありません。同じ発言をするにしても、そうした言葉(思考)の暴力性を意識した上なのか、そうでないのかでは、大きな違いがあると思います。
特に、何か自分と違う言葉(暴力)を発している者に対抗しようとする時、私たちはその相手に対する暴力性を帯びた私情の方が優先されてしまい、その議論の対象となっているところの他者(の多様性)への思いやりを失ってしまいます。
気をつけたいですね。だから最近はなるべく「英霊」の一人一人の人生をできうる限り共有することにしているのです。
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