組曲「アブデラザール」よりロンド(パーセル)
イスラム教とキリスト教との関係に改めて関心が寄せられている昨今であります。イスラム国による人質事件なども、ある意味では「イスラム教のリベンジ」の意味合いもあることでしょう(すなわち十字軍撃退の再現)。
仲小路彰は鋭く指摘しています。実はヨーロッパの文明、特に科学や哲学は十字軍の敗退によってイスラム的思想、思考法が輸入されたと。そういう視点も必要ですね。
今はどうか分かりませんが、ヨーロッパでは古くはそうしたイスラム教世界に対する敵意とも憧れともとれる不思議な感情を持っていたようです。
このパーセルの名曲もそんな背景のもとに作られたものでしょう。
「アブデラザール」とはイスラム教国の王女の名前。そして、この曲の副題は「ムーア人の復讐(リベンジ)」です。
ムーア人とは北西アフリカのイスラム教徒を指す言葉です。スペインはかつてはムーア人が支配していました。有名なアルハンブラ宮殿もその遺跡ですよね。
実はアブデラザールのお父さんはムーア人の王でしたが、スペインのレコンキスタ(キリスト教の国土回復運動)によって滅ぼされました。スペイン王国にとらえられたアブデラザールは密かに「復讐」を図りますが、あと少しというところで結局夢と終わってしまう…そういうお話です。
そのお話にパーセルが音楽をつけたのがこの組曲。そして、序曲に続く2曲目がこの有名なロンドです。
最近ではダイハツミラのCMで使われていますね。また、ブリテンの青少年のための管弦楽入門でテーマとして使われており、小学校や中学校の音楽の時間に一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
このたび我が中学の弦楽合奏部でこの曲を練習することにしました。パーセルらしく中声部は謎の動きをします(アンサンブルするまでワケがわからない)。テーマに現れる「減4度」の響きがどこか「アラブ」的、「イスラム」的な雰囲気を醸し出していますね。
かつて私も全曲演奏したことがありますが、その時はその物語の内容や歴史的事実を知ることなく、ただただ「いい曲だな」という感じでした。
いろいろ知ると違ったものが感じられるようになってくるから面白いですね。
組曲全曲はこちらの動画でどうぞ。なんとも哀しい物語なのですね。
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