『岳麓点描』 井伏鱒二 (彌生書房)
山梨に縁の深かった井伏鱒二。太宰の富嶽百景にも登場しているように、こちら富士北麓地方(郡内地方)を訪れることもしばしばでした。
この「岳麓点描」は、昭和51年ごろに中央公論社の月刊文芸誌「海」に連載されたものを集め、単行本として昭和61年に発刊されました。
とっても地味な作品ですが、地元に住む私としては、文豪の取材力、またそれをもとにした構成力の驚かされます。
新倉掘抜、富士の笠雲、裾野を行く馬子、剣丸尾、窯跡、六根清浄、御師の町一、御師の町ニ、道志七里という9編の短編の中で、私が特に興味を惹かれたのは、剣丸尾と窯跡。
なぜなら、ここに「宮下文書」関係の内容が出てくるからです。井伏もあの怪しすぎる文書に魅せられた一人だったのでしょうか。
そうですね、あの文書群と、その膨大かつ荒唐無稽な内容には、歴史学者や科学者よりも文学者が食いつきそうです。私もその一人(?)。
さて、その「宮下文書」関係と思われるキーワードというか、この小説に出てくる古文書の名前を挙げてみましょう。
相模国寒川神社日記録
桓武帝延暦十九年以前加吉駅図
加吉駅近傍略図写
最近何度か書いた「寒川神社」も出てきますね。そして「加吉」という駅名。これは富士高天原のあった場所、すなわち現在の富士吉田市明見地区にあたります。
昭和の51年ですから、井伏はおそらく林房雄の「神武天皇実在論」を読んでいたのでしょう。井伏と林は作家どうしとしてはもちろん、釣り好きどうしとしてもつきあいがあったようです。
その「神武天皇実在論」には『富士古文書』(宮下文書)ほか、いわゆる古史古伝の話題が出てきていて、ある意味、昭和の古史古伝ブームを作った本であるとも言えます。
そうそう、ちょうど先週、富岡幸一郎さんがこの本を紹介してましたっけ。
神話教育ですね。大切です。ローカルな神話も大切ですよ。だから宮下文書のモノガタリこそ、地元の子どもたちに知ってもらい、楽しんでもらいたいし、大人になったら批判的に評価してもらいたいと思うのです。
林房雄はある意味科学的にアプローチしようとして、ちょっと滑っていますが(笑)、井伏鱒二は見事に文学に昇華しています。
地元の方にはぜひ一度読んでいただきたいですね。
Amazon 岳麓点描
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