「寒川」の謎(その2)
昨日の記事に質問をいただきましたので、今日はちょっと補足する記事を書いておきます。
今日の内容もかなり大雑把なダイジェストですので、ぜひ興味のある方は原典に当っていただきたいと思います。
また、原典の内容もいろいろなヴァージョンがあり、今日紹介する内容と食い違う点も多々あることをご了承ください。
さて、まず、宮下文書(富士古文献)における「寒川」の基本情報です。まず、同文書に含まれる古地図などによると、当地方では「桂川=相模川」のことを「寒川」と呼んでいたことが分かります。
そして、その「寒川(桂川=相模川)」流域とそれに囲まれる地域全体を「相模」「相模河原」「相模原」などと呼んでいたことになっています。
面白いのは、かつてはここ富士吉田のあたりを含む、今で言う「郡内地方」は相模の国であったという記述です。
たしかに今でも、いわゆる「国中地方」(甲府盆地を中心とする地域)と「郡内」とはずいぶん文化や言語が違います。「べえ」を使ったりするのはその一例です。生活圏的にも、どちらかというと関東平野の方に意識が向いていますね。
昨日書いたように、「寒川」と「相模」は言語学的にもほとんどイコールと捉えることが可能ですから、太古には丹沢山塊を囲む地域に「サンガ(サムカ)」文化圏があったと考えると面白いかもしれませんね。
そして、昨日も少し触れましたが、「サムカワヒコ」という神様は、宮下文書ではツキヨミの息子であり、そして「オオヤマツミ」と同神であるということになっています。
つまり、イメージとしては、日本一の富士山に、日本中の山を司る「オオヤマツミ=サムカワヒコ」がましまして、山の生活を中心とする一大文化圏があったという感じです。
そうすると「山窩(サンカ)」との関係も気になってきますよね。いや、ちょっと想像を膨らませすぎでしょうか。
さらに宮下文書には、ある意味トンデモな記述が続きます。
その「旧相模国」の一部が甲斐国に編入されたという記録です。今の山梨県と神奈川県の県境のようになったのはその時ということですね。相模国の小国都留高座郡の一部を甲斐国都留郡としたということです。
それが大化5年(649年)。その頃には今の富士吉田市明見に寒川大明神があり、その後福地八幡大神と改称したとあります。
さらに延暦の富士山の噴火(800年)で明見(阿祖谷)が壊滅的なダメージを受け(科学的には証明されていません)、福地八幡大神(寒川大明神)の機能を、現相模国一宮寒川神社に遷し、里宮としたとされています。
それが延暦21年(802年)のことであると記されているので、もしそれに従うと寒川神社の創建は802年ということになります。現在、寒川神社側ではそのような(トンデモな)記録を全く相手にせず(知らないことはないはず)、創建は不詳ということになっています。
公式記録としては「続日本後紀」に初登場するそうで、その記事は846年のことですから、まあ宮下文書の伝承とは矛盾しないことになりますね。
宮下文書によると、さらに富士宮の大宮浅間大社、三嶋大社、甲斐一宮の浅間神社、また北口本宮冨士浅間神社などもルーツは明見にあった宗廟群「阿祖山太神宮」であるということになっており、まあ、そこまで行くとどうしても「トンデモ」感が強くなってしまって、私もさすがについていけなくなってしまいます。
しかし、これが捏造された歴史であったとしても、そういうウソをつかねばならない事情があったことはたしかで、それはそれで真実の歴史であります。私はそういうスタンスで歴史をとらえる人間ですので、単にアカデミックに正しい間違っている、本当だ嘘だというようには片付けたくないですね。
いずれにせよ、ある時期に、当地方(富士北麓地域)では相模の寒川神社に何らかの思い入れ(片思い?)があったのはたしかです。
延暦の噴火で危険にさらされた宮下文書は書き写されて、相模の寒川神社に保存されていた時代もあったとのこと。しかし、馬入川(相模川の異名)の氾濫でそれらも流されてしまった…宮下文書などの偽書(と言われる種類の文書)にありがちな、自然災害による喪失という「物語」もここにはしっかり積み重なっています。足利氏による焚書など人災ももちろん(笑)。
またいつか続きを書きますね。
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