『愛國百人一首』 (昭和17年)
いやあ、知らなかった!我が校にこんなモノがあったとは。
中学で百人一首大会をやりまして、百人一首セットを掘り出してきた同僚の先生が「こんなのありました」と持ってきてくれたのがコレ。
「愛國百人一首」の初版。昭和17年12月8日発行。開戦から1周年の日です。
私は思わず興奮してしまい、一枚一枚じっくり読みいってしまいました。実に複雑な意味のでの「感動」であります。
最初のうちは「おお美しい」「おおかっこいい」という感じだったのですが、だんだん気持ち悪くなってきた。なんだろうこの「変な感じ」。
箱の表書きは次のようになっています。
認定 情報局
選定 日本文學報國會
協力 毎日新聞社
愛國百人一首
後援 陸軍省
海軍省
文部省
大政翼賛會
日本放送協會
京都 山内任天堂謹製
う〜ん、これはある種のメディア戦略ですね。これを学校や家庭でやったわけですか。暗記、暗誦、そして取り合うことによって、どんどん言葉が染み付いてくる。
いや、そう、なかなか素晴らしい歌が揃っているのですよ。私はこちらに書いたように、小倉百人一首大嫌いな国語のセンセーであります。その小倉百人一首に比べたら本当に質の高い歌が揃っている。
それもそのはず、選者がすごい。
選定委員は、佐佐木信綱、斎藤茂吉、太田水穂、尾上柴舟、窪田空穂、折口信夫、吉植庄亮、川田順、斎藤瀏、土屋文明、松村英一、北原白秋。選定顧問には徳富蘇峰、辻善之助、平泉澄、久松潜一ほか。そうそうたるメンバーであります。
いちおう、万葉集から明治元年以前に亡くなった歌人に限定したそうです。つまり、これらの歌の一首一首は、決して翼賛的、戦意高揚的な思想で作られたのではない。
しかし、その無垢の一つ一つがこうして百集まると、かな〜り「愛国的」になる。言葉の不思議ですね。
もちろんウチの学校でこれを教えているわけではありません。なにしろ存在を知らなかったんですから。
裏を見るとどうも昭和43年に誰かから寄贈されたようです。その後たぶん一度も開かれることなく平成27年に至る、という感じかな。
ふむ、ちょうど今日中学生に明日の「建国記念の日(天長節)」について教え、日本が2675年続いてきたこと、70年前に国がなくなる危機があったことなどを話したところだったので、なんとも言えない因果なモノを感じました。
ちなみにどのような歌が採用されているかについては、こちらのサイトやこちらのサイトでご確認ください。
いきなりホンモノが目の前に姿を現すとは思いませんでした。時代が時代とはいえ、やはりこれは行き過ぎだと感じます。先ほども書いたように、一首一首は本当に伝統的な秀歌だと思うだけに、こうして使われたことに哀しさを覚えますね。
隣の戦前生まれの先生と話しましたが、歌も富士山も天皇も間違った方向に利用されたのですよ。この愛国百人一首を再評価する動きもあると聞きますが、やはり私は間違っていると感じます。我々の思いがどうであれ、歌にも富士山にも天皇陛下にも失礼だと思うのです。
どんな理由があろうとも、日本の伝統、自然、信仰を戦争の大義と結びつけるのはいけません。
当時の文学界、美術界、音楽界、宗教界…ほとんどが過ちましたね。
Amazon 愛国百人一首
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コメント
え………これ、手元にありますが………。
投稿: A.I | 2015.02.10 20:27