世IV虎と安川惡斗の不穏試合に思う
私がプロレスファンであることを知っている人はたくさんいます。その皆さんから今回のスターダムの一件に関してコメントを求められております。
そのたびになんとも歯切れの悪い受け答えをしている自分がおり、なんとも自身も煮え切らない気持ちになっております。
プロレスの日にプロレスの復活を喜ぶ記事を書いたばかりだっただけに、正直かなりショックです。
うん、難しい。シンプルなんだけれども難しいのです。
まず、私個人の中での難しさの原因として、私がプロレスファンであるというだけでなく、スターダムのファンでもあり、また世IV虎選手や安川悪斗選手のファンでもあるという点が挙げられます。
正直、私にとってはご贔屓の団体での出来事、中でもご贔屓の選手どうしの事件だったので、なかなか否定的にとらえられないということがあります。
特に世IV虎選手については、そのキャラクターも含めて「いい選手」だと信じていただけに、非常に落胆したと同時に、これで彼女の選手生命が絶たれてしまうのではないかという不安もあります。それはある意味ではプロレス界にとっても損失となるからです。
かつて、私はスターダムの興行を観戦し、こちらとこちらのような記事を書いています。
旗揚げ直後の彼女たちの様子を観て、それなりの評価をするとともに、たとえば「ただ、どうでしょうね、ちょっと観ていて心配な場面もありました。受け身の取りそこねや、技のかけそこねは大けがにつながります。そういう場面が若手に多く見られました。そういう意味では、まだまだ素人の域を出ていない選手もいます。体もとてもレスラーとは思えない子もいて、技のダメージが心配でした」とか、「とにかくスタミナ切れがひどく、後半になるとどんどん技が雑になります。受け身も充分でなくなり、見ていてヒヤヒヤしたり、思わず失笑したり。若い団体であり、新しいコンセプトを試験中ですから、ある程度はしかたないとは言え、さすがにプロとしてどうだろうかという気持ちにもなりました。それこそ全女時代だったら、どう考えても練習生(雑用係)で、リングにも上げてもらえないような子が、後楽園ホールの大舞台で試合している。今日はたくさん全女OGが集まっていましたが、皆さんどういう気持ちで彼女らの試合を見ていたのでしょうか」などいう心配も書いていますね。
まあ、ある意味ではその心配が現実のものになったとも言えましょう。ただ、その「プロとしてどうだろうか」が精神的な面、心の面で現れたということでしょうか。
プロレスは非常に高度な文化です。つまり、「荒魂」を昇華して「和魂」を発現するという、まさに日本の「祭」のような機能を持っているからです。それをギリギリのところでやらねばならない難しさ。プロとしての経験と高い精神性が必要です。
たとえば、諏訪の御柱祭で死者が出たりしますよね。それこそ日常性と非日常性のギリギリのところでないと、そこに本当の祭祀性、聖性は現れません。
そういう意味では、たとえばプロレスリング・ノアにおける三沢社長の試合中の死は、御柱祭で戦中に町長さんが亡くなったのと同じような意味があると感じるのです。
では、今回、両選手や団体にそこまでの覚悟や経験や精神性があったかというと、かなり疑問であります。結局のところ、いろいろな意味でのシロウトが神聖な場でやらかしてしまったと。
祭でそういうことがあってはならないように、これはやはり「場」と「歴史」に対する冒涜です。残念ですね。
ちなみに今日は娘と大日本プロレスのデスマッチをテレビ観戦しましたが、あれほど危険で痛そうなことをやっていても、やはり彼らはプロ中のプロなので、ある意味安心して見ていられました。プロレスは観る側にとっても難しいものなんだなあとつくづく思いましたね。
知り合いのプロレスラーたちは口を揃えて言います。いつでもガチ、セメント、シュートを受けて立ち、負けないように心も体も技術も磨いておく。ぜったいにナメられないように。実際にはお互いのそうした「力量」を肌で感じながら、相手を尊重しして事故の起きないように戦う。
そうした緊張感が、たしかに現代プロレスには少なくなってしまったかもしれません。皮肉にもその結果としてこのような「凄惨なケンカマッチ」が成立(?)してしまった。
一方で「不穏試合」もプロレスの仇花という感じ方もあります。ギリギリの予定調和が一気に崩れたことが、過去に何度もありますよね。それが歴史的には「語れる試合」になったりする。
ただ、一般の方々、プロレスをほとんど知らない方々からすると、やはり、野蛮で非文化的なジャンルに見えてしまうでしょうね。
実はこれって教育界でも同じようなことが起きているんですよ。いろいろな場面で。お分かりになりますでしょうか。
まだまだ煮え切れない心境でありますが、最後に尊敬する女子プロレスラーである里村明衣子選手のコメントを紹介しておきます。つまり、こういうことなのでしょう。祭に女が参加できないことが多いのもこういうことに根ざした文化なのかもしれませんね。
(以下、里村明衣子選手のブログより引用)
スターダムの件で、
全国的なニュースになっているので再度私自身も考えたい。
プロレス興行。
チケットを買ってくださったお客様は、何を求めてみに来られているのかを想像し、試合を通じてお客様に何を届けたいのかを考えます。
闘いの中で、潰し合い、憎しみなどの感情が産まれる事はあります。
しかし、「プロ」の「レスラー」である以上
その感情を「最高のエンターテイメント」としてお客様と共有しなければいけない、お客様を闘いの場に引き込み共に闘う力とする責任があるのです。
それが「プロ」の「レスラー」の私達の役目だと思います。
レスラー志望の選手は最初から野望高く、血の気が多い子が10代で入ってくる。
時に感情をコントロール出来ない【やんちゃ】な子がほとんどです。
それを毎日毎日人間関係や礼儀、練習を徹底管理する事は本当に大変な事です。
うちも練習中のスパーリングでも、感情的になりケンカに発展する事は良くあります。
そうなった瞬間、髪の毛ひきずってでもリングから下ろすのが上の役目。
お前はプロじゃないと教える。
一線を超えたらプロレスで無くなるのです。
理性を抑える事を覚えさせる。
全てが紙一重。
プロレスとは、きちんと相手と向き合い、闘いを通して、感動、信頼、楽しさ、生きる強さを伝える最高のエンターテイメントです。
新日本の棚橋選手が最後に【愛してまーす】の一言でファンと一体になる事こそが夢や希望を与える究極の良いパフォーマンスだと思います!
人様の子供を預かる身としては何かあってからでは遅いのです。その責任は私もしっかり考えたいと思います。
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