『現代アラブの社会思想〜終末論とイスラーム主義』 池内恵 (講談社現代新書)
タイムリミットの72時間が経過しましたが…その間、クソコラ大会になったり、謎の会見があったり、まあ日本という国のある意味での恐ろしさは世界に充分伝わったことでしょう。
もちろん人質の二人の無事を祈りますが、なんというか、人命(生存権)という人間による近代的産物を軽く超越した何か、それはとってもプリミティヴなモノなわけですが、それがこの国では重視されるようですね。
ちなみに日本における笑いというのは和魂であるととも荒魂でもあります。今回のバカッターの情熱や2ちゃんねるの大喜利は荒魂ですね。
結果がどうであれ、彼の国の異教徒たちがいろいろな意味でドン引きしてしまったのは確かでしょう。ああ、おそるべし日本。
彼らがそんな私たちを理解できないように、私たちもイスラムについてほとんど無知、無理解です。私ももちろんそうです。今回初めて何冊かの本を読んでようやくほんのちょっと分かったような気がしました。
おおとい少し紹介した東大の池内恵さんの素晴らしいデビュー作であるこの本。たしかに面白かったし、本当に勉強になりました。いろいろ分かりました。
いや、やはり分からないということが分かった。これはキリスト教を理解するよりずっと難しいかなと。
コーランやハディースの内容が難しいということではなく、現代のアラブの置かれている状況が非常に難しいと。
やはり経済(カネ)という悪魔にキリスト教、ユダヤ教はもちろんイスラム教もやられている。そうした市場というリングの上で、3wayマッチが展開されている。3wayによくあるように、とりあえず序盤は一人を排除するために別の二人が組む。もちろん、今はキリスト教とユダヤ教がアメリカというマネージャーをバックに共闘しているわけですね。
そうした圧倒的不利の中で、さらに自分の陣地への侵攻を許している状況で、イスラムはある種反則攻撃に出るしかなくなっている。
その一つがテロであり、そこまで行かない大多数は(私は知りませんでしたが)終末論、陰謀論、オカルトにはまってしまっている。
これは非常に大変な状況だと思いました。根が深いなと。
「偽救世主ダッジャール=ユダヤorアメリカ」という図式は、そう、実は日本にもかなり古くからあります。
たとえば、私の尊敬し研究している歴史哲学者仲小路彰も、やはりイスラムに詳しかったからか、戦前はかなり強い調子で似たような主張をしています(反面、日ユ同祖論や皇室シュメール説に近いことも言っている)。
それこそこれほど離れた日本でもそうなのですから、当地では私たちの想像以上に強く、ある種の「物語」がすさまじい生命力を持って成長、増殖しているに違いありません。
今回の人質事件もそうした流れの延長にあるのであって、単に「話せば分かる」「仲良くしよう」ではとてもとても解決するような話ではないことが分かります。
彼らは非常にまじめなのであって、まじめすぎるからこそ、私たちからすると極度な教条主義に陥っている、あるいは非人道的に見えるのです。私たちの常識や人道なとどいう概念は、まさに近代的な人工物にすぎない。
話を戻しますと、彼らがくそまじめだからこそ、また教条的だからこそ、そうした「コト」を超えた、日本的な「モノ」が有効かもしれないなとも思うわけです。コトにコトで対抗してもダメです。
フランスの風刺はやはり「コト」的なんですね。その点、クソコラや謎の会見は、メディアでありながら、近現代的な「意味」を喪失、いや超越したモノノケであったわけで、もしかすると、イスラム国の皆さんが守り続けようとしている古典的な神世界と相通ずるところがあるかもしれないと、ちょっと期待してしまうのですね。
そんなに甘いものではないとは分かっています。しかし、アメリカやフランスと同じことをしてもダメでしょう。これを機会に、「(いろんな意味で)日本はアブナイ」と思わせるのも一つの手でありましょう。
Amazon 現代アラブの社会思想
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