追悼 松本健一さん
評論家の松本健一さんがお亡くなりになりました。68歳。正直早すぎたと思います。
近代アカデミズムが捉えそこなった出口王仁三郎や北一輝、ある意味タブーの領域であった明治天皇、大正天皇、昭和天皇、さらには文学界では石川啄木や中里介山、高橋和巳らに対する鋭い評論は、私にも大きな影響を与えてくれました。
けっこうたくさんの著書を読んでいるのですが、このブログではたった一つ『昭和天皇伝説 たった一人のたたかい』に関する記事しか書いていませんね。
おととしでしたか、若かりし頃から愛読していた「出口王仁三郎 屹立する最後の革命的カリスマ」が再版され、その巻末に付された60ページに及ぶ増補からは、松本さんの言説の現代的な重要性を感じていたところでした。
本当に残念です。
その増補は、ナンシー・K・ストーカーさんの「出口王仁三郎 帝国の時代のカリスマ」に対する批判から始まっています。
王仁三郎がアメリカの若い女性学者によって、それこそ現代的意味において蘇らされたことに、どうしても我慢がならなかったのでしょう。
そう、たとえば王仁三郎が、近代的な意味においてもいまだ解釈されつくされていない、いや研究さえほとんど進んでいない状況の中、あのように戦後のコマーシャリズムやメディア論の中で再定義されることに違和感があったのでしょうね。なんとなく分かります。
近代アカデミズムがあえて避けて通った人々、あるいは「現人神」たちを取り上げる勇気。松本さんに関しては、まずはそこを評価してさしあげるべきだと思います。私のような在野の趣味人とは違いますからね。本当に大変なことだったでしょう。
増補にも述べられていますが、実際に、たとえば師である丸山真男からも強い批判を浴びました。しかし、それにもめげず、いやそれまで以上に頑張れたのは、松本さんがそれぞれのカリスマたちの裏側に発見した「大衆のルサンチマン」がご本人にもあったからではないでしょうか。
大衆社会という近現代は、一方でそうしたルサンチマンを希釈する装置として働いています。たえとば最近はやりの(?)ポピュリズムやネット言説は、逆説的にカリスマの登場を抑制していますよね。
そんな時代だからこそ、松本健一さんの存在は貴重だと思っていた矢先の訃報。本当に残念です。
私は無力ですが、少しでも松本さんの「直観」のようなモノを受け継いでいきたいと思っています。
ご冥福をお祈りします。
Amazon 増補 出口王仁三郎(副題)屹立する最後の革命的カリスマ
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