物語としての歴史
今日10月3日は中川昭一さんの命日。彼の死とそこに至る過程もまた物語化されているように、全ての歴史は意図的解釈による「物語」であると言えます。historyとstoryは同語源ですし。
私の「モノ・コト論」に基づく物語観の話を持ち出すと混沌とするので、今日はそこは我慢(笑)。一般的な「物語論」に従います。
今日、高校3年生の教材として某大学の過去問を扱ったのですが、それがちょうど「物語としての歴史」に関する文章でした。
鹿島徹さんの「可能性としての歴史−越境する物語り理論」の一部。
最近それのある部分が「騙り」であったと分かった「慰安婦問題」や「南京大虐殺」という物語に関する内戦(!)に関する考察はなかなか面白かった。
なるほど、そうした意図的な記憶と忘却(抹殺)の選択こそが、「歴史」という「物語」が創られる原理そのものであり、それが目的的にも結果的にも「共同体」を強化する方に働くというのはよく分かります。
そういう意味において、教科書問題(歴史に限らず)というのは、まさに「意図」と「意図」の葛藤であって、物語対物語という新たな次元での戦い(それは案外不毛だったりする)を生み続ける「場」であることに気づきます。
そう、この前、Toshlさんの「洗脳」の記事に書きましたとおり、これは教育という名の「洗脳」の場における異教どうしのせめぎ合いみたいなものですね。どちらが論破するか。折伏するか。しかし、その主体も客体は生徒ではないという矛盾(苦笑)。
考えてみれば、中川さんの死というのも、もともとが誰かの意図によるものであったことはたしかです。もちろん、それが自殺か他殺か病死かというような議論ではなく、その事実の根底にあったモノが本人以外の意図だったということです。
私の専門、未来学で言うとですね、歴史というのは過去を記述するのではなく、実は「こうあってほしい」という未来を描いているものです。このような「歴史」を後世の人に知ってほしいという情報であって、その情報が未来人にある意図的な影響を与えることを目的として記述されるのです。
もし物語としての「歴史」ではなく、事実としての「歴史」というものがあるとしましょう。それもまた未来学的には、未来を意図して創られていくものです。中川さんの死もそうですし、たとえは先の大戦も、意図された未来どうしの衝突であったとも言えます。
私たちの日常は、そうした無数の「未来への意図」が複雑に絡み合って現象しています。ですから、未来というのは運命論的に、あるいは自然科学的な因果律によって決定されているのではなく、意図のタイミングや強さによってどんどん変化していくものです。
極論してしまうと、現在起きていることの原因は未来にあるということになるのですが、お分かりになりますか。
私たちは未来意図的な存在なのです。そした未来の不決定性こそが「モノ」であり、過去は決定した「コト」ということになります。そうすると「モノガタリ」と「フルコト・カタリゴト」の違いも明らかになってきますし、「コト」が「モノ」に影響を与えるという意味での「コトタマ」の存在も実感できることになりましょう。
…と、結局私的「モノ・コト論」になってしまいそうなので、このへんでやめておきます。
中川さんは歴史教科書問題に力を入れていました。中川さんが意図した未来は、今実現しているのでしょうか。それともそれを阻む力によって意図された未来の方が優勢なのでしょうか。
中川さんの意図した未来への物語と、未来に投げかけられた言霊について思いを巡らせてみようと思います。
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