まにまに(随)
中二病の中3の娘がいきなり「まにまに」っていう漢字は送り仮名どうなるの、という「まに」アックな質問をしてきました。
私、恥ずかしながら、まず「随」という漢字がぱっと浮かばず「?」状態になってしまいました。いかんいかん。
娘はなんだかオタクな音楽(すなわち上の「千本桜」ですね)の歌詞に出てきたから知っているそうで、たしかに中二病文化というのは、意味もない背伸びや、そうした古典的な言い回しによる現代社会、一般的若者からの差別化を図りますからね(笑)。
で、その質問に対する答えですが、これが実は難しい。「随」で「まにまに」なのか、それとも「随に」なのか。
だいいち、「まにまに」自体が品詞的に何なのか、よくわからないのですよね。
用例として最も有名なのは、百人一首にもある菅原道真の歌でしょう。
このたびは幣もとりあへず手向山もみぢの錦神のまにまに
いや、この歌自体、意味がよく分からないのです。学校ではまあ適当に教えられていますが、どうも道真のことだから、深い裏の意味がありそうな気もします。
いずれにせよ、「神のまにまに」は「神の思し召しのままに」という意味で正解だと思います。
そう、今ふと使った「ままに」という言葉は「まにまに」が短縮されたものと考えられています(「ままに」が先だという説もあります)。
そうしますと、今異様にはやっているアナと雪の女王の主題歌「ありのままで」は「あるがまにまに」ということになりますね。
なんだか「Let it go」というのは「忘れてしまえ」というような意味だとかいう話もありますけれども、どちらにしても、「自己(の意志)にこだわらない」という意味では、英語の let も日本語の「まにまに(ままに)」も他者性の強い言葉であることは分かりますね。
そこで私が言いたいのは、「まにまに」と「もの」という言葉の関係です。
いささかこじつけのように感じられるかもしれませんけれども、「mani」と「mono」が同源である可能性は充分あると私は思います。
どちらも自分の意志を超えたところ、言い換えると「他者の随意(思いどおり・自由)」というニュアンスがあります。
案外意識されていませんが、「だっておねえちゃんがいじめるんだもん」という時の「もん」は「もの」です。これも「自分の意志に反して」「他者のせいで」という意味を含んでいますよね。
「もの思い」の「もの」もそうです。「もの思い」の内容というのは、片思いだったり、望郷であったり、なかなか自分の思いどおりにならないことばかりですよね。
ところが「随」という字は、「したがう」という意味ですし、「随意」(これで「まにまに」とも訓む)は「自分の思いどおり」という意味ですよね。なんとなく矛盾しているようにも感じますが、もうお分かりのとおり、これはあくまでも「他者が自分の意志にしたがっている状態」を表しているんですね。
だから、「まにまに」という和語も自分には使われません。
そして、その「まにまに」こそが日本の思想・哲学の根本なのです。
神道に「随神(かんながら)」という言葉があります。これはまさに「神のまにまに」ですよね。「神の思し召しのままに」ということです。
道真も当然、「随神」を中心的な哲学として持っていたに違いありませんから、あの歌にもそういう神道的な意味合いがあるはずです。そのへんは教科書では教えられませんね。
というわけで、中二病の娘の問いに対する答えですが、「送り仮名なしでもいいし、随にでもいい」という、なんともスッキリしないモノになってしまいました(苦笑)。
最後の「に」のとれた「まにま」という言い方もないにはないのですが、ほとんどが「まにまに」「ままに」として使われているので、ひとつづきの連語としてとらえた方がいいようです。
ちなみに、本来の「波の随に(流され揺れるがままに)」に、「波の間に間に」という漢字をあてたのは後世のことで、そこから「間(あいだ)に」的な新しい意味も生まれてしまいました。間違いと言えば間違いであります。
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