『縄文の息吹今も 信州・諏訪のおんばしら』 萬治友美
源流、起源、人間の関わりを探る
今日は諏訪大社下社の「本見立て」の日。再来年行われる御柱祭の際に建てられる「おんばしら」の最終決定の神事が行われました。
今回は、昨年「仮見立て」で選ばれた樅の大木8本がそのまま選定されたようです。
下の写真は、一番最初に見立てられるという春宮の一之御柱(はるいち)です。来年このご神木は切り倒され、そして再来年山出し、木落し、里曳などを経て、いよいよ建御柱の神事でそれぞれの宮に建てられます。
皆さんもご存知のとおり、これらの過程で人が亡くなることもあります。前回平成22年には建御柱の際に二人が落下して亡くなりました。昭和19年には山出しの最中当時の下諏訪町長が御柱の下敷きになって亡くなりました。
御柱祭というと、下社の豪快な木落しが最も有名で、また大変危険なイメージがありますが、実はその他の場面も全て命懸けなのです。
今日の本見立ても、山深く御柱(候補)の場所に行くまでが大変。滑りやすい急斜面を下ったり上ったりしなければならない。清めの酒が入っていることもあって、転ぶ(場合によっては転がり落ちる)ことは当たり前の状況です。
選ばれた樅の木の御柱も、考えようによっては今日死刑宣告を受けたようなものですね。百数十年保ってきた命を捧げる。来年切り倒されて引きずり回され落とされ…。まるで市中引き回しの刑ですよね。
祭の本質は、そうした「荒魂」をギリギリ人間のコントロール下において動かすことにあります。もちろん、あくまでギリギリですから、時々、いやけっこうな頻度ではみ出す。そうすると人も死ぬ。
しかしその死さえも貴い、価値あるモノとされていきます。まさに現代社会の尺度ではとても測れない、ある意味全く意味の分からない世界ですよね。コト世界からすると。
そんな不思議な、しかし根源的な懐かしさを覚える諏訪大社の御柱祭についての解説本としておススメなのがこの本。春宮前の参道で生まれ育ち、諏訪大社や御柱祭について知り尽くした萬治友美さんが、それこそ人生をかけて調べ、思索し、記した魂の書です。
決して学術的な本ではありません。だからこそ諏訪の、そして御柱の本質が伝わってくるのです。
その起源を縄文、いやそれ以前にまで求め、御柱には男根信仰が息づいていると語り、そこに神話が重なっていく。そして、そうした幻のような世界に浸っていると思っているうちに、いつのまにか、現代の諏訪の人々の生活や心についての文章を読まされている。
それもまた祭の本質です。脈々と継がれていくモノガタリ。時間を軽く超えてしまう。今と昔が交錯する。これもまた近代的な時間観、歴史観、あるいは科学的な視点からすれば、ありえないモノです。
そんな「気分」を味わうには、実際に祭に参加するのが一番ですが、私たちのように諏訪の外に住む人間としては、この本を読んでヴァーチャル体験するのもいい方法でしょう。
なにしろ、この本をお書きになった萬治さんが、まさに時間を超えて現代に出没した縄文人のような方なのです。
この本は基本的に萬治さんのお宅に行って、萬治さんから購入するしか手に入れる方法がありません。
春宮を参拝された折には、ぜひとも参道で一際異彩を放つ「萬治亭」を訪ねてみてください。現代の現実世界に突如現れた異空間、超次元を体感することができますよ。
そう、諏訪の街自体が祭祀空間であり、たとえば萬治さん自体が既に祭であり、神なのであります。
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