NHK BSプレミアムドラマ 『歌謡曲の王様伝説 阿久悠を殺す』
昭和の日、昨年末に放映されたドラマの再放送がありました。
歌謡曲バンドをやりながら、昭和史について思いを巡らせている私にとって、阿久悠は当然最重要人物です。
いずれバンドで「阿久悠特集」をやろうといつも言いながら、選曲が難しすぎて、すなわち名曲が多すぎて、なかなか実現しません。
それほど数多くの、そして多様な歌詞を創造した阿久悠。彼の詞(あえて詩とは書かない)は時代を映していると言われています。しかし、一方であまりに多面的であって、たとえば「これこそ昭和」というものを見つけるのは実は困難だったりします。
もちろん、時代、世の中、人間というのがすでに多面的で多様性を持っていると言ってしまうことも簡単です。私たちはその一面だけに注目して、何かを語ろうとすることが多い。
阿久悠は、一般人の目によって分析された一面を、総合しなおして本質に迫る仕事をしたのだと思います。
だから、阿久悠特集をやって、つまり抽出してもなかなか「阿久悠」にならない。そんな、自然の景観のような表現者であると感じます。
このドラマは「阿久悠を殺す」のは誰かということをテーマに、時代の変化を表現していました。
ドラマですから、基本的に形式的、二元論的に語られて当然。「阿久悠=歌謡曲=職人作詞家・作曲家世界」が、1980年以降のシンガーソングライター的J-POPに殺されていったのか、それとも阿久悠自身によって過去の阿久悠が殺されていったのか。
実際はそれほど単純ではないにしても、一つの事実を伝えているのはたしかだと思いましたね。
サザンやユーミンに始まり、私も魅力を感じている日本のロックの世界もそうですが、結局のところ、「詩」を書いているのです。「詞」ではない。
つまり「詩」は私的な世界であり、一面の共有と普遍化を目指すとするなら、「詞」の世界はその逆です。多面の共有、全体の配布なんですよね。
そういう意味では、たしかに時代は個人主義化が進んでいるとも言えましょう。これも単純化はできませんが、やはり公よりも私という傾向は強くなっていると思いますし、共同体の規模も縮小していると感じます。
昨日の話ではありませんが、結局のところ、私たちは「日本」という「国」すら見失いつつあるのではないかということです。
グローバルと言いながら、どんどん個人が拡張されていく。だから、私は今「時代おくれ」ながらも「(グローバル)ファミリズム」を提唱しているのです。まさに「家族」「家」「国家」の拡張としての「世界」「地球」。
そう考えると、やはり、大変な作業になるけれども、阿久悠をちゃんと読み込まなければ、いや聴きこまなければならないのかもしれません。
実際、時代はそれを必要としているような気もするのです。単なる個人的ノスタルジーではなく。
時代おくれの男になりたい…。
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