『スポーツ 体罰 東京オリンピック』 玉木正之 (NHK出版)
体育の時代への決別…帯にはこうあります。
体育とスポーツは本質的に違うものであり、日本には本当のスポーツは根付いていないということを前提に話が進みます。
なぜ、スポーツが体育になってしまったのか。そこには当然「歴史」が存在します。そして垣間見える戦争の影…。
昨日、決勝戦が行われた高校野球。春はまだしも夏の甲子園は軍国主義一色です。昨年の夏に書いた記事から抜粋してみましょう。
・開会式の入場行進が軍隊式
・プレイボールのサイレン(サイレンで始まるスポーツってありますか?)
・負けたら終わりの背水の陣
・故郷への思い(愛県心は愛国心の縮小版)
・炎天下での過酷な戦い(ドームで空調はダメ)
・坊主頭
・汗、涙、土まみれ(人工芝はもってのほか)
・塁=陣地(盗塁は敵陣を盗むこと)
・遊撃、右翼、中堅、左翼などの言葉
・併殺、封殺、死球などの言葉
・犠牲フライ、犠牲バントなどの言葉
・吹奏楽による応援(吹奏楽は軍楽)
・コンバットマーチ
・試合後の校歌斉唱、校旗掲揚(国家・国旗の縮小版)
・期間中に原爆の日、終戦の日、お盆がある
・甲子園の土の持ち帰り(遺骨収集)
・朝日新聞の「旭日旗」(笑)
私は高校野球が大好きですし、自分も甲子園を目指した野球少年でした。しかし、それはスポーツとしてというよりも、やはり「ドラマ」としての興味に起因しています。
プロレスがいわゆるスポーツではないのと同じように、私は高校野球や大相撲もスポーツではないととらえています。
それはそれで「文化」として、それも日本独特の文化としてあって当然だと思います。しかし、いわゆるスポーツ、特にオリンピックの競技と一緒くたにして考えてしまうと、いろいろと面倒なことが起きてくる。
そういう意味で最も難しいものの一つは「柔道」です。この本でも最終章は「柔道」と「JUDO」についてたっぷり解説しています。実はそこに私のイメージと違うことが書かれていたので面白かった。勉強になりました。
もともと「スポーツ」は非暴力の文化であったはずなのに、日本の「体育」では「体罰」という暴力が横行している。東京五輪までにその体質を抜本的に改善すべきである…という、玉木さんの論には基本的に賛成です。
五輪に向けては当然そうあるべきでしょう。私は次期東京五輪は、脱体罰、脱成果主義、脱商業主義を世界にアピールする機会だと思っています。そして、オリンピック憲章にある「スポーツと文化と教育の融合」を目指すべきだと思っています。
一方で、「体育」という文化はある程度残してもいいかなとも思っています。やはりそれが日本人のある種の美点を育てるのに寄与していると実感しているからです。
そこについては、私はまだはっきり言えるほど思索していないのですが、学校から「体育」がなくなって、いわゆる「体育のセンセイ」がいなくなったらどうなるのか…すなわち、学校から「荒魂」がなくなったらどうなるのか…、正直心配であります。
体罰問題は教育者として「絶対反対」と言うべきなのでしょうね。玉木さんも完全否定をしています。たしかに玉木さんのようにはっきりそう言うだけの根拠があればいいのですが、実際のところ、教師は「世間がそういう流れだから」「面倒なことになるから」という理由だけで「体罰反対」「体罰はしません」と言っています。
これでは本質的な問題解決にはなりませんよね。
体育や体罰の是非を語るならば、少なくともこの本のレベルでの知識を共有し、その上で議論すべきでしょう。
私のように直接スポーツに関係していない人間にとっても実に面白い本でした。特に、バレーボールの「バレー」って?とか、サッカーやテニスの語源、バスケットボールのルールのルーツなど、私たちが表面的に親しんでいるスポーツの歴史を知るにも最適な本でした。
歴史を知らないと、それぞれの競技の本質が見えてきません。その歴史とはまさに「人間の欲望」「戦争」「暴力」との闘いの知恵の集積なのですから。
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