『東京五輪1964』 佐藤次郎 (文春新書)
昨日の続きです。
半世紀前の東京五輪開会式の映像はよくテレビでも流れますので、今の方々もなんとなくあの光景は知っているでしょう。たしかに前日までの嵐が嘘のような好天に恵まれ、青空に自衛隊による五輪が描かれたあの開会式も五輪史に残る素晴らしいものでしたね。
言うまでもなく、「体育の日」はこの10月10日の開会式を記念して制定された休日です。まあ、この前書いたように、「体育≠スポーツ」ですから、本当は「スポーツの日」とすれば良かったのかもしれませんが。
その開会式からの15日間、日本は大変な熱狂に包まれました。
いろいろな人に聞くと、特に地方ではあまり「オリンピック・ムード」というのはなかったとか。しかし、実際に始まってみると、カラー放送による中継というエポックも手伝って、テレビに群がる人々が増え、さらにいくつかの金メダル獲得によって、徐々に…というか、急激に日本中が盛り上がったようですね。
たしかに今のような情報網がない時代ですから、そういうものでしょう。逆に言えば、2020の五輪は、準備段階から全国的なムーブメントになっていくことと思いますし、そうしなければならないとも思います。
さて、その15日間のそれぞれの日のあるシーン(人々)をピックアップすることによって、全体の大きなうねりを表現することに成功した好著がこの本です。
最初から読み進んでいくと、まるで当時に生きていたような感覚に襲われます(私は生後2ヶ月でしたので「生きていた」とは言いがたい)。
いや、当時はこんなドラマがあったとは知る由もないわけですから、ある意味「当時以上」の臨場感があるとも言えます。
その15日間の各シーンはこんな感じです。
第1日 坂井義則 聖火を灯した最終ランナー
第2日 ホッケー代表 大敗からの出発
第3日 三宅義信(重量挙げ) 金メダルへの「4年計画」
第4日 ボート代表 選抜クルーの挑戦
第5日 サッカー代表 銅メダルへの助走
第6日 佐々木吉蔵 ボブ・ヘイズの信頼を勝ち取った名スターター
第7日 織田幹雄 日本初の金メダリストの夢
第8日 山方澄枝 ヘーシンクの髪を切った選手村の理容師
第9日 田中聰子 メダルの重圧を背負った渾身の泳ぎ
第10日 花原勉 八田イズムで掴んだレスリングの頂点
第11日 中谷雅英 柔道初の金メダル
第12日 寺澤徹 アベベ、円谷に敗れた42.195キロ
第13日 杉山茂と西田善夫 国際テレビ中継を支えたNHKのスタッフたち
第14日 男子バレー代表 「東洋の魔女」にかき消された銅メダルの快挙
第15日 岸本健と土門正夫 写真家とアナウンサーが見た幸せな閉会式
この本を読んでいても、最終日、これがなんとも感動的です。出来上がったばかり、そして15日間のドラマの舞台となった国立競技場。ここに、ある意味競技以上に筋書きのないドラマが待っていました。
そう昨日書いたようにウチの父親もその場にいました。入場券を再掲しましょう。
どんなドラマが待っていたのか。この本から少し抜粋してみましょう。
〈なんだ、これは。いったいどんなったんだ〉
まったく予想しないことだった。まず各国旗手が入場し、その後から選手たちが国ごとに隊列を組んで整然と入ってくるはずではないか。しんがりとなるザンビアと日本の旗手のすぐ後ろから、肩を組み、手をつなぎ、まったくの一団となった各国選手が大騒ぎをしながらずんずんと入ってきたのである。
父親に確認したところ、たしかにそうだったそうです。もちろん当時の観客はもともとそういう演出だと思ったのでしょう。しかし、スタッフや報道陣は本当にびっくりしたようです。
そんなことを知れるのもまた、当時以上の「臨場感」の例でしょう。
こうして歴史が、時間を経てさらにリアルな体験になりえるということを、この本はしっかり示していると思います。
だからこそ、2020も語り継がれ、永遠に臨場感を増し続ける大会にしなければなりません。
1964に大いに学びながら、しかし、1964と同じことをやってもしかたありませんし、こうした偶発的なドラマも、期待して生まれるものではありません。
やはり、「人事を尽くして天命を待つ」、あるいは「天命は人事を尽くすを待つ」ということでしょうね。
最後に、佐藤次郎さんの文章、いいなあと思いました。いい本です。
Amazon 東京五輪1964
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