「必死」とは…人は必ず死ぬ
昨日は「志」という言葉について考えてみました。今日は「必死」です。
必死に頑張る、必死に戦う、必死さが足りない…「必死」という言葉、私たちは一日一回とは言わずとも、数日に一回くらいのペースで使っているのではないでしょうか。
私は今日、猫が逃げる様子を見て「必死に逃げてる」と言いました。その時、ふと、「必死」ってどういう意味かなあ…と思ったのであります。
普通には(辞書的な意味では)、「必ず死ぬこと、死ぬ覚悟で全力をつくすこと」ということになりますね。もちろんそのとおりなのですが…。
さっそくいつ頃から使われている言葉か調べてみますと、どうも中世以降のようです。つまり、漢文の「必死(かならずしす)」が日常名詞化し、その後「必死なり」「必死たり」「必死に」「必死と」のように形容動詞化して、近世に至って「必死に」という副詞的用法が一般化したという感じですね。
で、私が何をふと思ったのかと言いますと、漢文の「必死」がどういう意味だったのかということです。単純に「必ず死す」だったら、「死ぬ覚悟で全力をつくす」という意味に直接結びつかないような気がしたのです。
「必ず死す=100%死ぬ」だとしたら、これは「人間は誰しも必ずや死ぬものである」という、ある意味当たり前のことで、仏教の経典かなにかに出てきそうじゃないですか。しかし、日本ではそういう意味では使われない。日本の漢語輸入は仏教経典からですから、今の意味になったのがちょっと不思議な感じがしたのです。
そこで漢文で「必死」がどのように使われているか調べたところ、なるほどと思える文章を見つけました。
かの有名な史記の項羽本紀の鉅鹿之戦の場面です。
項羽乃ち悉く兵を引きて河を渡る。皆、船を沈め、釜甑を破り、廬舍を燒き、三日の糧を持ち、以て士卒に死を必して、一の還る心無きを示す。
そう、これこそ「生還するつもりのない必死の覚悟」そのものですよね。そして、結果として勝利する。
やはり、本国でも「必死」は「死にものぐるい」という意味で用いられているのでした。つまり、「必」は「秘す」という意味の動詞だったのです。これで納得です。
しかし、今日の私はしつこくて(笑)ここで終わりませんでした。
先ほどふと思ってしまった「人間は誰しも必ず死ぬ」という真理に関してです。
なるほど、そう考えるとみんな「必死」に生きているのだなと。ぐーたらしている今日の私も実は「必死」なのだと。
皆さん、そんなふうに考えたことがありますか?
幕末の開国論者横井小楠の言葉にこういうものがあります。
人必死の地に入れば、心必ず決す
これも一般的には「追い詰められれば決心できる」というように解釈されていますが、「必死」の意味を広げると、「人間必ず死ぬものなのだと思えば決心できる」とも読めますよね。
出口王仁三郎とも関係の深い、近代右翼の巨頭、頭山満はこんなことを言っています(右の写真は、王仁三郎、頭山満、内田良平というすごいトリオ!)。
人間は火のついた線香じゃ。それに気がつけば誰でも何時かは奮発する気になるじゃろう。老若誠に一瞬の間じゃ。気を許すな。
これこそ「必死」の境地じゃないでしょうか。おぎゃーと生まれた瞬間に線香に火がつき、刻一刻と確実に線香は短くなっていきます。あとどれくらい残っているか分かりません。だからこそ、一瞬一瞬を「必死の覚悟」「決死の覚悟」で生きなければならないということですね。
違う見方をするなら、私たちは常に、自然に「必死」なのであります。もしかすると、ぐーたらしているのもまた「必死」なのかもしれません。「必死にぐーたらしている」と思えば、それはそれで立派なことかもしれません。なにしろ、命をかけてぐーたらしているわけですから(笑)。
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