「言挙げ」とは
昨日の話の続きになります。
皆さんは、万葉集の「葦原(あしはら)の瑞穂(みずほ)の国は神(かむ)ながら言挙(ことあげ)せぬ国然(しか)れども言挙ぞ吾(あ)がする事幸(ことさき)く真幸(まさき)くませと恙(つつみ)なく幸(さき)くいまさば荒磯波(ありそなみ)ありても見むと百重波(ももへなみ)千重波しきに言挙すわれは言挙すわれは」という歌をご存知ですか。
もしかすると教科書に載っていたかもしれません。柿本人麻呂の歌集に含まれる長歌です。
ここにはいろいろと興味深い「コト」が出てくるのですが、今日はその中の「言挙げ」という言葉を取り上げてみます。
一般には(学校では)こういうふうに説明されていることでしょう。
言挙げ=ことばに出して相手にいうこと。ことばに出して論ずること。
《解説》
上代に見られる言霊に対する信仰のあらわれ。「言(こと)」として表現されると「事(こと)」として実現するという考えから、むやみに言葉として発してはかえって効力を失うとされ、よほど重大なことでない限り慎むことが要求された。
いわゆる「言霊論」的な説明です。何度も書いてきているように、私は特殊な「モノ・コト論」を展開しており、一般的に言われる「言霊」という言葉の解釈(それはすなわち江戸の国学者によって考えだされた新しい解釈)に反旗を翻しております。
ですから、当然「言挙げ」に関しても、こうした常識的な解釈とは違った捉え方をしています。
私にとっての「コト」は「モノ」の対義語、すなわち、次のような図式で表される語です。
モノ=自然・不随意・他者・未知・存在・未分化・霊…
コト=人為・随意・自己・既知・概念・分化・言語…
なんとなくお分かりになるでしょうか。細かいことは死ぬまでに本を書きますからお待ちください(笑)。
で、「言挙げ」ですけれども、これは当然「コト+あげ」ですよね。「あげ」は「あぐ」という動詞の連用形が名詞化したものです。
「あぐ」という動詞は、漢字を当てると「上・挙・揚」となり、どれも位置的に高くして位置エネルギーを大きくすることを言います。比喩的には、「はっきりさせる・完成させる」などの意味になります。
ですから、私としては「言挙げ」とは、ただ「言葉にして言う」ということではなく、「自分の意見をはっきり最後まで通す」という意味にとらえております。
あくまで「自分」なのです。そこが肝心。だから、「言挙げせぬ国」とは「自分を押し通さない国」という意味なのです。
ここで、私の解釈がそれほど間違っていないことを示すために、ある有名な文を提示しましょう。「言挙げ」の説明にこの文を使うのは私が人類史上初めてでしょう(笑)。
一に曰(い)わく、和を以(も)って貴(とうと)しとなし、忤(さから)うこと無きを宗(むね)とせよ。人みな党あり、また達(さと)れるもの少なし。ここをもって、あるいは君父(くんぷ)に順(したが)わず、また隣里(りんり)に違(たが)う。しかれども、上(かみ)和(やわら)ぎ下(しも)睦(むつ)びて、事を論(あげつら)うに諧(かな)うときは、すなわち事理おのずから通ず。何事か成らざらん。
そう、かの聖徳太子の十七条憲法の第一条です。この第一条の冒頭の「和」についても真説として、こんなことを書きました(ぜひお読み下さい!)。
ここにですね、「ことをあげつらふ」と訓む部分がありますでしょう。これはよく読むと分かりますように「ことあげ」なのです。
「つらふ」というのは「連らふ」で、連続的に繰り返すという意味の言葉です。つまり、「コトをあげ続ける」というのが「事を論ふ」なのです。
で、これも一般的にはただ「論議する」なんていい加減に訳されてますけれども、違うんです。「自分の意見を言い続ける」ということなのです。
「かなふ」と訓んでいる「諧」という漢字は、実は「和」と非常に近い意味を持った字なのです。「ととのふ」とか「かなふ」とか「あふ」とか「やはらぐ」と訓みます。
ですから、「事を論ふに諧ふ」とは、「自分の意見を言うにあたって『和』の精神を用いる」ということなのです。
そう考えると、聖徳太子というのはやっぱりエポックメイキングな偉人だということが分かりますね。つまり、「言挙げせぬ国」とされていた日本を、「やり方によっては言挙げしてもよい」という民主主義の基礎を作ったわけですから。
そうだ、そうだ、昨日の話の続きということで始めたんだった。でも、お分かりになりますよね。自分の意見を通す(「事理おのずから通ず」)ためには、批判だけではダメだということです。「和」で相手を動かす、変えるのです。
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