『もはや、これまで 経綸酔狂問答』 西部邁・黒鉄ヒロシ (PHP出版)
ふむふむ、実に面白く勉強になったなあ。
まさに、お二人が酒場で語り合っているのを隣で聞いている感じ。
お二人の佇まいとかしゃべり方とか、普段テレビでよく拝見しているので、活字が見事に映像になっていく。そうすると、速読(即読)できないので、けっこう読破するのに時間がかかってしまいましたけれども、こういう読書時間の流れ方も悪くないですね。
きっと編集がうまいのだと思います。その、なんと言いますかね、お二人の「狼藉者」ぶりというか、「やんちゃ」さというか、そういう男臭さがよく伝わってきますよ。
それこそ古今東西硬軟聖俗なんでもござれという感じで、話があっちこっち飛びつつも、不思議と土台はずれていない感じがする。
なるほど、本当の「悪」には教養が必要なんですな。経験と教養が土台になっているから、上で多少暴れても迷惑にならないのでしょう。
「もはや、これまで」は決して諦観ではないし、英語の「It's all over」とも違う。昨日までの話ではないけれども、再生のスタート地点でもあるわけですね。
そうそう、今日はカミさんと「終戦のエンペラー」を鑑賞しました。私は昨年の終戦の日に劇場で観て以来。
あれなんかも、ある意味昭和天皇は「もはや、これまで」と決断したわけじゃないですか。決して終りではなくて、まさに新生の掛け声、呼び声だったわけですよね。自らその雛型を演じた。まったくお見事な「もはや、これまで」でした。
この西部さんと黒鉄さんの対談も、いろいろ憂いを吐露しながらも、元気を与えるものになっている。そういう男としての覚悟を感じました。
言語、経済、教育、国家、戦争と平和、芸術、宗教などなど、なんだ、どれも終わりそうで終わってないじゃないかという希望を感じさせる内容。ものすごく乱暴にまとめてしまえば、劣化列島日本の立替え立直しをするには、やっぱり保守がもっと頑張らねばということになりましょうが、保守はある意味安心なんですよ。なぜなら、保守だから。伝統という基礎があるから。
もちろん、革新、あるいは左右で言えば左の推進力も重要です。しかし、そこには伝統がない(すなわち反省しかない)ので、なんの道標もない方に走るしかない。たまに正しい道を行く場合もあるけれども、実はほとんど間違いなんですよね。
それを修正して助けるのが保守であって、その両者がタッグを組んで初めて「進化」が生まれると、私は考えています。だから、今までのように敵対するのは論外。
そういう意味においても、その統合体として、一人の人格の中でその「進化」が可能になるのが、私の理想であり、今まさに目指しているところであります。
正直、この対談の中の賢人お二人のレベルでも、なかなかそこまではいかない。やっぱりまずは保守再生しないとバランスが悪いということでしょうか。
西部さん、普段のしゃべりでも、しょっちゅう英語が挿入されて面白いですよね。この本でもそうです。そして、それは「語源」にこだわっているからです。これは病気だと黒鉄さんに言われ、また、ご自身もそう言っておられます。
これはよく分かりますね。同病相憐れむです(笑)。
ワタクシ的に言えば、語源の魅力(魔力)というのは、そこに歴史があって、それもまさに保守と革新のせめぎ合いが象徴的に表れていることです。お分かりになりますよね。特にそのルーツと現状がかけ離れている時にドラマが読み取れる。
あっそうそう、無粋なツッコミかもしれませんが、同病の者としてどうしても書いておきたいことがあります。
西部さん、何回か「いとおしい」の語源を「いと/惜しい」と解説されていますが、残念ながら(今のところ)ガチガチの保守派のワタクシは訂正したくなります(笑)。
「いとおしい」の古語は「いとほし」で、「いとふ(厭う)」という動詞が形容詞化したものです。すわなち、苦しみで悩ましい感情を表す語なんですよね。
現代語の「愛おしい」につながるのは、かよわい人や物に対して、「守ってあげたい」と胸キュンするシチュエーションです。
まあ、レトリックとしては「とても惜しい」でもいいけれども、重症の語源病患者としては、ここはちゃんと抑えておきましょう(笑)。
ところで、黒鉄さんですが、実はけっこう頻繁にお見かけします。特に夏場。ウチの斜向かいによくいらしてるんですよ。季節限定の超ご近所です。
今度はぜひ生でお話をうかがいたいと思います。
Amazon もはや、これまで
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