フリードリヒ大王(クヴァンツ?) 「シンフォニーニ長調」
にわかに「ゴーストライター」作曲家が注目されております。
当該の事件に関しては、明日行われるであろうゴーストさんの記者会見ののちに、改めて書きましょう。
音楽界に限らず、「ゴーストライター」はどの時代にも活躍していたわけで、その正体を現すのはある意味野暮なことでは思ったり、またそういう行為自体をスキャンダルのように扱うのも、文化論的にどうなのかなとも思ったりします。
今日紹介する、かのフリードリヒ2世のシンフォニーも、おそらくは大王の音楽の師クヴァンツの作品でしょう(それこそアイデアやモティーフは大王自身のものかも)。
フリードリヒ2世は、言うまでもなく世界史上の有名人。七年戦争だけでなく、のちのドイツの歴史や文化に多大な影響を与える偉業を残していますね。
彼は音楽史においても重要な仕事をしたと言われています。特にフルートの演奏に卓越し、フルートのための音楽を数百単位で作曲したと伝えられています。
その作風は後期バロックと前古典派の特徴を併せ持っており、なるほど、その後のハイドンやモーツァルトの音楽の誕生を導いた感はあります。
また、(来週私もその生誕300年を祝うコンサートに出演しますが)バッハの次男カール・フィリップ・エマニュエル・バッハを重用したことも音楽史上の一大事業に貢献することになりました。
すなわち、1747年、大王が35歳の時、エマニュエル・バッハが62歳になった父バッハをポツダムに招き、その時に大王が与えたというあの変ちくりんなテーマから名作(迷作?)『音楽の捧げもの』が生まれたというのです。
全く時代遅れな「対位法」や、それに基づいた「即興演奏」の極致(極地)と言える「音楽の捧げ物」は、本当の意味でのバロック時代への鎮魂歌となりました。
いや、この「事件」、ちょっとうがった見方をするとですね、また違った意味も見えてきますよね。
大王は次男バッハを重用したと書きましたが、実際はクヴァンツに比べるとかなり冷遇していようです。あんまり好きじゃなかったんでしょうかね。
そこに当時は全く売れなかった、そして、大王自身の好きな「最先端」の音楽とは正反対の難解な音楽にこだわる老バッハが来た。
大王は、この偏屈なジジイを困らせてやろう、息子にも恥をかかせてやろうと、半分嫌がらせで、あの「気持ち悪い」半音階のテーマを与えた。
しかし、バッハは見事に3声のリチェルカーレを即興演奏したと。さらに、それをのちにパワーアップして「音楽の捧げもの」として献呈した。
お互いに嫌がらせ合戦やったとも言えるわけですよね(笑)。
その時、大バッハが演奏したのが「最先端」の(彼にとっては)「気持ちの悪い」フォルテピアノであったというのも、また皮肉であります。面白いですね。
真相はどうなんでしょうか。
まあ、嫌がらせだろうがなんだろうが、とにかくあの時空を超える名曲(迷曲)を生ましめたフリードリヒ大王にはGJ!と言いましょうか。
このなんとも明るく快活なシンフォニーと、「音楽の捧げもの」のあまりに対照的なコントラストこそ、バロック的な明暗の極致と言えるかもしれませんね。
昨日の話ではないですが、「保守」と「革新」のせめぎ合いこそが、バロックの醍醐味なのでありました。
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