「和」
今日は我が中学の推薦入試。
毎年のことですが、国語の問題の本文を公開します。
毎度、国語の問題の本文は私が書きます。入試問題はその学校のメッセージですから。
今回は「和」をテーマに書いてみました。写真入りというのもちょっと珍しいかもしれませんね(笑)。
では、どうぞ。
「和」
昨年十一月に行われた富士学苑中学校の文化祭「葵江祭」のテーマは、「平和」でした。生徒たちは、演劇や合唱、ダンスや楽器の演奏などを通じて、「平和」の大切さ、「平和」の尊さを一生懸命表現しました。
全校製作のモザイクアートでは、ジュースの紙パックを使って「和」という字と富士山を描きました。生徒一人ひとりが自分の役割をしっかり果たし、それらが一つになって美しく壮大な作品ができ上がった瞬間、だれもが「和」を感じたことでしょう。
そうです。この「和」という字には、「いろいろなものがとけ合って一つになる」、あるいは「いろいろなものをとけ合わせて一つにする」という意味があるのです。
たとえば、「調和」や「和音」という時の「和」は、そういう意味だとすぐにわかるでしょう。考えてみると、「足し算の結果」を表す「和」にも、違うものが合わさって一つになるというイメージがありますね。
さて、みなさんは、「和える」はなんと読むか分かりますか? 「わえる」ではありませんよ。
ヒントを出してみましょう。たとえばこれです。
これは「ほうれん草のごま和え」です。
もう分かりましたね。「和える」は「あえる」と読みます。
この「和える」ということばも、たとえば「ごま和え」で言うなら、「ほうれん草」と「ごま」(と醤油と砂糖)を混ぜて一つの食べ物にするというように、いくつかのものをとけ合わせるという動作を表しています。
せっかくですので、もう少し漢字の読みのクイズを出してみましょうか。
「和尚」…これはなんと読むでしょう。えっ? またヒントの画像がほしいですって?
では、この画像を見てください。
そう、これは「一休さん」のワンシーンです。一休さんの向こうにいるのが「和尚さま」です。
はい、そうです、「和尚」はふつう「おしょう」と読みますね。
漢字のテストでは「おしょう」でいいのですが、実はこの「和尚」、仏教の宗派によって読み方が違うんですよ。
辞書を引いてみると、「禅宗・浄土宗ではオショウ、天台宗ではカショウ、真宗ではワショウ、また、ワジョウ、真言宗・法相宗・律宗ではワジョウという」と書いてあります。なんだか面倒くさいですね(笑)。
まあとにかく、ここでは「和」を「オ」と読んだり、「カ」と読んだり、「ワ」と読んだりしているわけです。
実を言うと、この「和」は、日本で使われている漢字の中でも最もいろいな読みがある字の一つなのです。
今から実際にいろいろな読みをあげてみます。端から端までちゃんと読む必要はありません。ただ、たくさんあるなあ、と驚《おどろ》いてください。( )の中は送りがなです。
オ、カ、ワ、あ(う・える)、ととの(う)、な(ぐ)、なご(む・やか)、にき、にぎ、のど(か)、やわ(らぐ)
さらに人の名前に使う時には、特別な読み方をします。これもとてもたくさんあります。
あい・あつし・かず・かた・かつ・かのう・たか・ちか・とし・とも・のどか・ひとし・まさ・ます・むつぶ・やす・やすし・やわら・よし・より・わたる
「和」という字を使って特別な読みをする熟語もいくつかあります。たとえば、「大和」は「だいわ」とも読みますが、「やまと」とも読みますね。和泉は「いずみ」、「和布」は「わかめ」、「和蘭」はなんと「オランダ」と読みます。
ふぅ、とてもとても全部覚えきれませんね。いや、いいんです。たくさんの読み方がある漢字なんだなということを実感してくれれば。
こうして見てきますと、「和」という漢字自体が、いろいろな読みや意味を持っていて、まさに「いろいろなものがとけ合って一つになる」「いろいろなものをとけ合わせて一つにする」ということそのものを表現した字であることに気づかされます。
どうでしょう、「和」という字の持つ重みや深みや広さが分かってきましたか。
さらに、ここでもう一つ思い出してほしいことは、「和」が「日本」を表す字であるということです。
昨年末、「和食」がユネスコの無形文化遺産にトウロクされましたね。「和食」とは言うまでもなく「日本食」ということです。こういう時の「和」は「日本」という国を表しているのです。
「和」という文字が日本を表すようになった理由や過程については、長くなるのでここでは説明しませんが、とにかく「和」が「日本」を表す漢字であるということには、とても深い意味があると私は考えています。
今から千四百年以上も前にセイテイされた、聖徳太子の十七条憲法に「和を以て貴しと為す」とあるように、私たちの国ではずっとずっと昔から「和」を大切にしてきました。
日本人は、どの時代においても、「いろいろなものをとけ合わせて一つにする」ことを自然にやってきました。他人を拒否したり、自分と違う考えのだれかと争ったり、自分たちと違う文化を嫌ったりすることなく、それらを自分とうまくとけ合わせてきたのです。
こうして「和」について知ると、なにげなく使っている「平和」ということばのイメージも少し変わってくるのではないでしょうか。
たとえば、私たちは「平和」を「戦争」の反対語(対義語)と考えがちです。そうすると、「戦争」がなくなることが「平和」だという安易な考え方におちいってしまいます。実際には、戦争をなくすだけでは平和を実現することはできません。
本当の「平和」は、自分と他者がとけ合って、よりレベルの高い何かに生まれかわることなのですから。
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