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2014.01.05

「ご苦労様」と「お疲れ様」

↓なぜこの写真なのかは最後に分かります(笑)
Img_4123 こ数年気になっていたことを書きます。
 最近の新入社員マナー研修などでは、「ご苦労様は上の者が下の者に対して使う言葉だから、上司にはお疲れ様(です・でした)を使いましょう」と書いてあって、たしかにウチの学校でも、若い教員はたとえば私に対して「お疲れ様です」を使っています。
 よく観察していると、生徒の中でも後輩が先輩に対して「お疲れ様で〜す」を連発していることに気づきます。
 皆さんはこのことに関して、どのような認識というかセンスをお持ちでしょうか。
 私はちょっと抵抗があるんですよね。
 そう、私は上司、たとえば校長先生に対しても「ご苦労様です」という言い方をしますし、それから、若い教員が電話などでも「◯◯(自分の名前)です。お疲れ様です」と、とにかく「お疲れ様です」を連発するのが気になってしかたないのです。
 まず、「ご苦労様」について考察してみます。
 最近のマニュアルの言い分では、「ご苦労(であった)」はもともと目上から目下への労いの言葉であるからして、上司に使っちゃダメよということらしい。
 はたして本当にそうなのでしょうか。
 たしかに、時代劇などを観ていますと「ご苦労(であった)」のような言い方を耳にします。しかし、それはあくまで「ご苦労」であって、「ご苦労様」ではありません。
 歴史的なことを調べてみると、「ご苦労」はまさに他者の苦労に敬意を表す「御」がついたものであって、目上や目下という身分関係にとらわれず、様々な使い方がされてきていることが分かります。
 目上の人に対して使われている極端な例としては、天皇陛下に対しても公的なところで「ご苦労をなさった」というような言い方をしています。
 「ご苦労様」と「様」がつく形も、実は同様であって、江戸時代から昭和までは、上下関係にとらわれず比較的自由に使われています。「苦労」に「御」をつけるだけでは足りず、「様」をつけているわけですから、ある意味最高の敬意が表されているとも言えますね。
 しかし一方で、目上の人に「ご苦労様」ということに抵抗を感じる人がいたのも事実で、平成8年のNHK放送文化研究所調査においては、「部下が部長に『ご苦労様でした』」おかしい39.2%、おかしくない57.1%、どちらとも言えない2.3%という結果が出ています。
 私は「おかしくない」派に入るわけですが、もしかすると平成26年の今、二十代の若者に調査をしたら、「おかしい」が90%とかになりそうな予感がしますね。
 そうそう、昭和の時代にも、中曽根さんが天皇陛下に対して「本当にご苦労様でした」と言って物議を醸したこともあったようです。
 そうしますと、これは言葉として「揺れている」状態だったものが、最近になってビジネスマナーの形をとって固定化する傾向があると判断してよさそうですね。
 このような「揺れ」には、方言(地域性)や家庭環境などが大きく影響しています。ですから、なかなか一概に結論を出すわけにはいきません。それが私たち中年以上の世代の正直な感覚なので、若いマニュアル世代とセンスの食い違いが生じているのも致し方ないかもしれません。
 こうした揺れが生じた原因として考えなければならないのは、「敬意逓減」という言語現象です。
 たとえば「オマエ」や「キサマ」というのは、もともと「御前」「貴様」という敬語だったのが、逆に相手を見下す、あるいは罵倒する言葉に変わってしまったものです。こういう現象を「敬意逓減」と言います。
 実は「ご苦労様」にもそのような現象が見られます。分かりますよね。言い方によっては「ごくろうさま(なこった)」に、相手を見下す、馬鹿にしたような意味が含まれてしまう。
 そうした用法の記憶が、この言葉を目上の人に対して使うことへの抵抗感を生むということがあるわけです。
 そのように、ある敬語に敬意逓減が生じて品格が下がると、なんとなく私たちはその言葉をむずがゆく感じるようになって、そこで違った言葉を発明するようになります。
 「お疲れ様」はおそらくそういった事情で生まれた言葉であると思います。実際、用例(書かれたもの)として確認できるのは、昭和の時代に入ってからのようです。話し言葉としてはもう少し前から使われていたかもしれませんが、比較的新しい語であることはたしかです。新しいゆえに「お疲れ様」にはまだ敬意逓減はほとんど起きていません。
 私はこの「お疲れ様」というニューワードについていけない古い人間の一人なのでしょうか。若い教員が猫も杓子も、まるで挨拶のように「お疲れ様」を連発するのを聞くと、「そんなに疲れてないよ!年寄り扱いするな!」とまで思ってしまいます(笑)。
 とまあ、このような複雑(考えようによっては単純ですが)な事情があって現代に至っているために、各種辞書でもその取扱いが揺れています。いろいろな国語辞典をひいてみてください。それぞれ違っていて面白いですよ。
 あっそうそう、最後に大事なことを。一番上の写真に関連して(笑)。
 私ですね、一昨年公開の映画「任侠ヘルパー」にチンピラ役として出演しました。その時のたった一つのセリフが、出所する組長さんをお迎えする折の「ご苦労様でした!」でした(笑)。
 目下の者が目上の者に対してしっかり「ご苦労様」を使っていますね。そう、そちらの世界や、軍隊、自衛隊や警察、ある種の体育会系の世界では、「ご苦労様」を使い「お疲れ様」はあまり使わないそうです。
 皆さんはいかがですか?
 いやあ、言葉というのは面白いですねえ。


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