『学校では教えない「社会人のための現代史」』 池上彰 (文藝春秋)
池上彰教授の東工大講義
学校で教えない…って、考えてみると変ですよね。
しかし、ご存知のように日本の教育界というのは実に特殊でして、特に公立では「不都合な真実」は教えないことになっています。
私のよく言う近過去(終戦までの近代史)と、近々過去(戦後の現代史)は、私もほとんど教わった記憶がありません。
「今」と近未来を作り上げていくために最も大切な知識が欠落しているのが、現代日本人の特徴でしょう。
では、いったい誰にとって「不都合な真実」なのか…。
これを、アメリカ(GHQ)による日本人骨抜き化計画(たとえばWGIP)であるとか、そういう陰謀論的な解釈をすることも可能ですが、実のところは日本人自身にもともとそういう傾向があったのではないかと思います。
すなわち「過去は水に流す」という、ある意味非常に前向きな思考回路があるんじゃないでしょうかね(どこかの国とは対照的ですな)。
実際、私の育った昭和の高度成長期は、後ろを振り返るヒマがないほどに前のめりにつんのめっていました。暗い過去を見ないとかいう発想もなく、ただただ実際にそこにあった明るい未来を目指していたように記憶しています。
しかし、今こうして、なんとなく不透明な時代になってみると、未来を描くにしても、やはり過去という土台が必要になってきているようにも感じられます。
そう、あの頃というのは、無意識的にも「(戦争に負けたがそれなりに)立派な日本」という土台があったのです。無視しても、あるいは意識しなくてもちゃんとあるべき「モノ」があった。
そういう安心感こそが、先ほど書いた日本人の特徴的なメンタリティーの前提になっているような気がする。そして、今は、それが非常に希薄で頼りない「モノ」になりつつあると。
必要な「モノ」はその力が弱くなると「コト」化されます。すなわち言語によって記述される。そして、記憶として処理されるようになっていく。歴史が生まれる瞬間です。
少なくとも私はそう感じて、最近やたらと近過去や近々過去に関する本を読むようになりました。
まあ、教育されるよりも、こうして必要に応じて自分で学ぶ方がいいのかもしれませんね。
それにしても、この本に書かれている近々過去たる「現代史」について、あまりに知らない、いやほとんどリアルタイムで体験している(つまり「歴史」ではない)のにも関わらず、全く覚えていないことに驚きましたねえ。
本当に必要なかったんだなあ、あの頃の私には。自分の生活に精一杯で、今のように「地球平和」なんていう壮大な夢も持つヒマがなかったとも言えるけれども、それにしても、教師になってからの事件もたくさん出てくるのに、いったい自分は何をやっていたのだろう。ニュースも見ていたと思うんですが。
あえて講義のメニューを記しておきますね。
1 東西冷戦
2 ソ連崩壊
3 台湾と中国
4 北朝鮮
5 中東
6 キューバ危機
7 ベトナム戦争
8 カンボジア
9 天安門事件
10 中国
11 通貨
12 エネルギー
13 EU
14 9.11
さあ、皆さんどうですか。はたしてこれらをどれくらい理解していますか。私はこの本を読み終えた今でも、かなり知識としては曖昧です。
なんとなく流れは理解できましたが、細かいところになると、もう忘れてしまっています。
池上さん以上に優しく分かりやすく説明してくれる人もいないでしょう。なのにこのザマ。つくづく自分の理解力、記憶力のなさには閉口してしまいます(苦笑)。
しかし、面白いのは、そんな自分でも、今、こうした近過去、近々過去の情報に飢えているという事実です。それは私が大人になったからとか、そういう次元のことではなく、おそらくは世の中が変革期を迎えているからではないでしょうか。
共感する方は、まずこの本から入ってみるのもいいのでは。
「不都合な真実」と言えばかっこいいが、実際は(少なくとも私には)「不必要な真実」だったのかもしれません。それが「必要な真実」に変わる瞬間に立ち会っているのか。
私は続けて池上さんの「東工大講義」シリーズを読み進めてみます。
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