『幻想の英雄―小野田少尉との三ヵ月』 津田信
ルバング島で戦後30年近く任務を続けた「最後の日本兵」小野田寛郎さんが亡くなりました。
小野田さんがルバングのジャングルから帰還したのは私が10歳の時。戦記などを好んで読んだり、戦車や戦闘機のプラモデルをたくさん作っていた私にとって、小野田さんは時空を超えたリアル兵隊さんであり、その精神やサバイバル力に、純粋に憧れた記憶があります。
こうして私も、日本に帰還した小野田さんと同じくらいの歳になりまして、少年時代とはまた違った視点で先の大戦にいろいろなことを学ぶようになりました。
そんな中、1年ほど前に、たまたまこの「幻想の英雄」を知り、読むことになりました。
これは、当時、小野田さんのベストセラーとなった「わがルバング島の30年戦争」や週刊誌の連載記事「戦った、生きた」のゴーストライターをしていた津田信さんが、その裏話というか、真相をまとめたものです。
津田さんとしては、あまりに真相と違うことを書いて(書かされて)しまったことに、関して罪の意識をぬぐい去りきれず、この暴露作品を書かざるを得なかった
ここには小野田さんとその家族や戦友たちとの様々な精神的葛藤が描かれています。当時は、英雄視されていた小野田さんをバッシングする内容として受け取られていたと思いますが、今読んでみますと、そういう葛藤から生じた小野田さんの「嘘」もまた、時代と時代が不自然に結合した特殊な状況が作り出した「真実」であるとも言えるように感じられます。
この「幻想の英雄」は、現在、津田さんのご子息であるジャーナリストの山田順さんがネット上に公開しています。誰でも自由に全編を読むことができるのです。
山田さんの英断に敬意を表します。
改めてこの時代に読んでみますと、小野田さんの苦悩、そして津田さんの苦悩の双方が感じられますし、いろいろな意味で、まだ戦後は終わっていないのではないか、結局小野田さんも全てを語らずお亡くなりになってしまったなあとも感じますね。
もしかして、小野田さんの大東亜戦争は永遠に終わらないのかもしれません。
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コメント
はじめまして。
小野田さんが帰還なさった当時、私は8才でした。
「幻想の英雄」は読んでいませんが、色々な方のブログ等で、おおまかな内容はわかりました。
私たちよりさらにお若い方々には、この本を小野田さんの真実というより、戦争の真実としてとらえていただきたいと思いました。
また、小野田さんがご存命のうちに、お若い方々にこの本を読んでいただけたら、もっと良かったのに、ちょっと残念な気持ちです。
投稿: どドイツ | 2015.09.06 21:33