2014 センター試験国語(その2…古文問1)
↓click!(私の問題冊子です)
さて、昨日の続きです。センター古文のお話。
今日、中間集計が出ましたが、国語は現在のところ20万人以上の答案を採点して満点なし。そんな試験が許されるわけありません。平均点も今のところ97点台。いけませんね、やっぱり。
さてさて、今日から今年の古文の問題(源氏物語)で、本文を読まずに(時間をかけずに)34点取る方法を紹介します。
その前にまず確認しておきますが、私はこのようなテクニックを生徒に教えなければならないことを、基本的には残念に思っています。
いちおう国語の先生であり、日本語・日本文化研究家を名乗る者として、やはり古文の世界には特別な思い入れがありますし、特にその中でも源氏物語は本当の意味での世界文化遺産だと思っています。
それを味わわずして、すなわち本文を読まないで解答しようというわけですから、純粋な気持ちで言えば残念としか言いようがありません。せっかくの名文に触れる機会なのに…。
しかし、一方で、やはり国語の先生として、生徒たちにテストでいい点を取ってもらいたい、また、このブログで何度か書いてきたように、現状の古文の授業(特に古典文法)に大いに問題がある、と考えている者としては、これから書くような「テクニック」を教えることの必要性も痛感しています。
さらにまた面白いことに、その「テクニック」には非常に本質的な言語運用能力につながる論理性があるのも事実なのです。そこを割りきって伝えれば、これはこれでいいのかな、などと思うこともあったりして…まあ、とにかく複雑な心境なのであります(苦笑)。
では、今年のセンター古文で、私が本文を読まないで34点を取った「テクニック」を公開いたします。
まず問題を見てもらいましょう…とは言っても、「本文を読まない」のですから、本文は載せません(あとでちょっとだけ引用しますが)。
問1…傍線部の解釈を問う問題です。解釈とは「現代語訳(口語訳)」と同義と思ってよい。毎年問1は解釈の問題でして、ほとんど90%は本文を読まない方が正解できます。本文を読んで文脈を取ろうとすると必ず混乱します(少なくとも私は)。
では、傍線部(ア)から行きましょう。私の思考を実況中継風に再現します。
(ア)いかさまにしてこのなめげさを見じ
1いかなる手段を用いても私はみじめな目に会うまい
2どうすれば私への失礼な態度を見ずにすむだろう
3どうしてこの冷淡な振る舞いを見ていられよう
4だましてでも夫にひどい目を見せずにおくまい
5何としても夫の無礼なしうちを目にするまい
私はまず傍線部の文を単語に分けます。この際必要なのは正確な文法知識です(山口式「活用表は覚えない」文法学習はここでは省略。いつか参考書にでもしましょう)。
いかさまに し て こ の なめげさ を 見 じ
私は「いかさまに」をいわゆる形容動詞の連用形としました。異論の可能性もありますが、今はそこは重要ではないので、とりあえずこれでよしとします(ちなみに私は形容動詞は認めたくない立場です)。
次にこの問題のポイントとなるであろう単語(特に助動詞)を見極めます。出題者の意図を探るのです。それを正確に訳していきます。
まず目につくのは文末の「じ」。これは「む」の打ち消しです。文末の「む」は英語のwillと全く同じ機能を果たしますので、「じ」はその打ち消し、つまり「〜ないだろう(打ち消しの未来)」「〜まい(打ち消しの意志)」しかありえません。
それに該当するのは、「まい」と訳している1、4、5。この時点では他の可能性も捨て切れませんが、とりあえずバッサバッサとやっていきます(ここが大事)。
次に目につくのは「なめげさ」です。これは重要単語「なめし・なめげなり」から連想すればいいですね。「なめし・なめげなり」は以前無礼猫(なめねこ)で書いたとおり(笑)、「無礼だ・失礼だ」という意味です。「なめげさ」はその名詞形ですね。
まず、素直に「無礼・失礼」という訳をしているものを探しますと、2と5ですね。もう実はこの時点で5が容疑者になります。あとは確認。他の選択肢のキズ(5が容疑者なら、他のアリバイ?)を探していきます。
その前に「いかさまに」について書いておきます。これは現代語の「いかさま」ではないと直観します。もしそうだとすると選択肢4が正解とすぐに分かってしまう。そんな問題が出るわけない。だいたい4は「見る」を「見せる」と訳している時点でダメ。自動詞と他動詞の混同は問題としてはありえません。
まあ、そうすると「如何様に」、つまり重要単語「いかに」と同じで英語のHOWみたいなやつだから、こいつも「いかに」と同様に「どうやって、なぜ、なんと、なんとしても、どうして〜か」などなど、なんとでも訳しようのある単語ということになるので、あまりこれに関わるとドツボにはまる可能性がある…経験からそう思います。
で、他の単語を確認。1は「なめげさ」を「みじめな目」と訳しているので、やっぱり✕。意訳を超えた飛躍しすぎな「飛訳」。
2はやっぱり「見じ」を「見ずにすむだろう」と訳しているので「飛訳」。「見ないだろう」だったら◯ですが。あえて明らかな間違いにした感がある。
3も百歩譲って「いかさまに」が反語を導くとしても、もし選択肢のような訳になるとしたら文末は「見ていられる」の古文になっているはずだが、全く違うので✕。「じ」の基本は打ち消しです。そして、可能の意味の単語もない。
ということで、正解は5になります。いちおう5もキズがないか確認してみます。うん、問題ない。「見る」を「目にする」と訳し変えているのがひっかけですな。
以上、文で書くと長いけれども、正しい文法知識と単語知識があれば、実質1分でここまでできます。
はい、次行きます。
(イ)らうたげに恋ひ聞こゆめりしを
1いじらしい様子でお慕い申し上げているようだったが
2いじらしげに恋い焦がれているらしいと聞いていたが
3かわいらしげに慕う人の様子を聞いていたようだが
4かわいらしいことに恋しいと申し上げていたようだが
5かわいそうなことに恋しくお思い申し上げているようだったが
らうたげに 恋ひ 聞こゆ めり し を
これはポイントがたくさんあるので正解しやすいな。まず目につくのは動詞「恋ひ(恋ふの連用形)」についている「聞こゆ」。これは謙譲語の代表。助動詞的に使われる謙譲語は基本「〜申しあげる」としか訳されません。よって、1、4、5が重要参考人。
次に「らうたげに」に行きましょうか。これは「らうたげなり」の連用形ですね。「らうたげなり」は「らうたし(労甚し)」と同じ。「らうたし」は「とっても労(いたわ)りたい」くらい、「かわいらしい」「守ってあげたい」という感じで生徒に覚えさせています。
そうすると、「いじらしい」と「かわいらしげ・かわいらしい」はOKですが、5の「かわいそうな」はダメっぽい。
4は文末の助動詞の処理がダメです。「めりし」は「めり(推定ヨウダ)」と「し(過去タ)」が連なっているわけですから、語順どおりに直訳すると「ようだった」になります。しかし、4は「たようだ」と順番が逆になっている。
その点、1は「ようだった」となっているし、「らうたげに」は「いじらしい様子で」、「恋ひ聞こゆ」は「お慕い申し上げている」となっているので、全く問題なし。まんまのほとんど直訳です。これが不正解だったら文句言われちゃうレベル。というわけで、1が正解。
次。
(ウ)いざ、給へかし
これは選択肢を載せません。なぜなら、「いざ、給へ」で「さあ、いらっしゃい。さあ、おいでなさい」という慣用句なので、もう選択する必要すらありません。知識問題。ちなみに「命令形+かし」は念押し。山梨弁の「命令形+し(たとえば『まあ、飲めし』)」と同じ(笑)。「〜しなさいよ(な)」と訳します。よって選択肢4の「さあ、こちらへおいでなさいな」でノープロブレム。
という感じで、問1は2分弱で5点×3=15点ゲットしました。毎年問1はこんな感じで解けます。
問1を正解するために必要な勉強は何なのか。それもはっきりしています。単純に単語の正確な訳と、助動詞の正確な訳です。ほとんどそれだけ。そして、それこそが古文読解の基礎でもあります。
基本的に、出題者は文法的、あるいは語彙的に誰からも文句を言われないように正答を作ります。そこに注目するだけで、実は本文を読まずにほとんど選択肢だけ見て正答することができるのです。
…長くなったので、問2、3、4は明日にしましょう。
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