『防衛省と外務省 歪んだ二つのインテリジェンス組織』 福山隆 (幻冬舎新書)
日本版NSC(国家安全保障会議)の創設関連法成立。非常に喜ばしいことです。
この本で特に強調されている、防衛省と外務省による二重管理、いやお互いの足の引っ張り合いの度合いは軽減することでしょう。ようやく国家としてまともな方向に動き始めました。
NSCによるインテリジェンスの統一的なコントロールができるようになるのと、特定秘密保護法案による防諜とは当然のことながら深く関わっていますので、なぜ片方、あるいは双方に反対する方々がいるのか、正直私の常識からすると信じられません。
まずはこの本を皆さん読んでみてください。とても分かりやすく、しかしリアルに書いてくださっているので、誰もが「知らなかった…これは国家の危機、すなわち自分の生命の危機だ」と思うことでしょう。
はっきり言って、私も最近までは知らなかった。と言うより興味がなかった。しかし、少し生活や思索の次元を上げてみたら、こんな国際的な常識すら知らなかったのかと愕然としました。
国家による情報の管理と言うと、すぐに「戦争する気か」と言い出す左巻きの人たちがいますが、それこそ自分の身に引きつけてみる、つまり、個人的な人間関係と情緒に次元を下げて考えてみれば、すぐに分かることです。
相手と争わないために「相手を知り、自分を知る」のです。また、「弱点はさらさない」のです。
情緒的なヒューマニズムこそ「言葉」だけの理想主義です。いつも言っているように、私たちは理想を目指すべきですが、現実には人間の次元がそこまで高くない。あるいは自分はそこまで行っていても、相手がそうでない場合もあるという現実を想定しなくてはいけません。
戦後日本人は(左翼を中心に)あまりに善人になってしまいました。個人のレベルでは、それでもいいでしょう。せいぜい「正直者は馬鹿を見る」程度の損害で終るでしょうから。お金は奪われても命までは奪われないでしょうね。
実際、日本はお人好しすぎて、アメリカさんやらにお金をずいぶん持って行かれましたね(苦笑)。まあ、それはそれで「布施」、「ノーブレス・オブリージュ」とも解釈できるのでいいとしましょう。
しかし、軍事が関わってくると、一気に私たちの生命が侵されるレベルにまで行ってしまいます。それを避けるには、筆者の福山さんが言うように、私たちは常に「防寒着」を着ているべきでしょうし、ある部分では冷徹に「性悪説」をとるべきでしょう。
とにかく相手があることなのですから。自分が善人だからと言って、相手も善人であると考えるのは、論理的におかしいと子どもでも分かります。良き方に信じたいが、やはり万が一のケースに備えるのが、国家の役割でしょう。
とにかく近代国家として、あるいは独立国家として遅すぎたのです。あまりに遅すぎたので、我々庶民の感覚が鈍ってしまっている。だから、反対派が「知る権利が奪われる」とか、「情報操作だ」とか、「戦前に帰ってしまう」とか、そういう情緒的な判断しかできなくなってしまう。これは恐ろしいことです。
私も個人のレベルでは、原発反対、消費増税反対、TPP反対、秘密保護法反対などと言って満足することもできます。ある意味簡単です。
しかし、そこには何か非常に大切な視点が欠けているようにも感じる。
私もその視点を学校で習ってきませんでした(逆の意味の特定秘密が保護されてきた?)。今、自分は教師として、あえてその視点も教えていきたいと思っています。あくまでも、未来の人類が「理想」に近づくために。
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