『修業論』 内田樹 (光文社新書)
今日は生徒の全中優勝祝賀会で、ロンドン五輪柔道銀メダリストの平岡拓晃選手のお話をうかがう機会を得ました。
全中決勝で負けた側からのお話、非常に説得力がありました。平岡選手は様々な苦難、すなわち北京五輪での屈辱的敗退や、怪我、病などを乗り越えて五輪銀メダルを勝ち取った方。そこには深い精神性が感じられました。
今、様々な問題があるとはいえ、柔道は柔道。やはり「道」であり、練習というよりも稽古を積む武道です。スポーツではありません。
そう言えば、先月、ニュージーランドからの訪問団をお迎えした折、柔道と剣道の実演を見ていただきました。私がなんちゃって英語でいろいろ解説したのですが、日本語で日本人にさえ「武道」を説明することはありませんから、これはなかなか難しくも面白かった。
言うなれば、この内田さんの「修業論」に書かれていることを、外国人の子どもたちに一瞬で伝えねばならないわけで、まあ、はっきり言って無理です(笑)。
しかし、あとで引率の先生から「武道の説明が分かりやすかった」とおっしゃっていただき(たぶん…なんちゃってリスニングなので)、ちょっと嬉しかった。
おそらくは「武道はこれこれこういう点においてスポーツとは違う」ということを強調して説明したからでしょう。そこだけは通じたのかもしれません。
その時、「武道」を細分化して、「Do you know Judo?」とか「Do you know Kendo?」とか「Do you know Karate?」とか聞きましたが、さすがに「Do you know Aikido?」に対しては「…」でした。
この本はその合気道の稽古、修業のあり方をベースにしています。
私は直接武道はやっていませんが、多少、禅に親しんだり、格闘技全般の観戦が好きだったり、また、合気道の創始に深く関わっている出口王仁三郎に興味があったりしますので、比較的楽しく読むことができました。
それこそ、スポーツや科学や言語、あるいは根性論という「コト」の対極にたしかにある「何か(モノ)」を、私も追求していると言えばしていますからね。私の言う「死なない力」に近いことも書いてありますし。
ただ、なんとなく思ったのは、内田樹さんは非常に頭が良いので、おそらくは言葉(コト)でモノを説明できるし、その行為自体の矛盾のようなものも感じずにいられるのでしょうが、私のような凡人には、ちょっと「説明的すぎる」かなと。
そういう意味で、頁を開く前に思った「修業じゃなくて修行じゃね?」的な違和感は、読了後、逆に消えたかもしれません。なるほど、「行(おこなひ)」より「業(わざ)」の方が言語的(コトとの親和性が高い)かなと。
私と内田さんの違いは、頭の出来の違いだけでなく、目指す所もちょっと違うのかと(当たり前ですけど)。
今日の平岡選手には「修業」よりも「修行」のオーラが出ていた。「金」ではなく「銀」だったことによって、彼の「修行」はさらに深まったのかもしれません。そして、まだ終わっていないのだなと感じました。
勝負を超えたところにあるべき「何か」に達するためには、とことん勝負にこだわらなければならないのかもしれません。まさにそれは「禅」的な手続きですね。
私ももっと勝負にこだわってみましょうか。逃避的平和主義、消極的平和主義ではなく、積極的平和主義ですね(笑)。
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