『明日への遺言』 小泉堯史監督・藤田まこと主演作品
たまたまテレビをつけたら始まるところでした。思わず引きこまれて観た110分。
ここ数日語ってきた「死なない力」を超えた、「死ぬ力」の存在を痛感させられました。
元東海軍司令官、岡田資中将は、最後まで日本の男であり続けました。戦犯として裁かれる中、部下を守り、米軍による無差別爆撃を国際法違反だと主張し、結果として絞首刑となりました。
その戦後の戦いを彼は「法戦」と呼びました。「法戦」という言葉の中には、二つの意味があるなと思いました。
裁判における「法律の戦い」。そして、岡田が深く信仰していた日蓮宗の教えに基づく「仏法の戦い」。つまり「ほうせん」と「ほっせん」。
映画というよりもドキュメンタリー・ドラマという感じでしたね。その点、映画としての評価は微妙な部分があるかもしれませんが、変に感動大作に仕上げず、淡々と事実を描いた点は、逆に現実の重みと深さを伝えるのに寄与していたと思います。
そして、なんと言っても藤田まことの名演技。ほとんど演技ではなく、藤田まことそのままでしたが、結局、それが名優たるゆえんとなるのでしょう。他者(モノ)を招くという意味での(世阿弥の言う)「ものまね」の境地に至っています。
おそらくは藤田まこと自身が、岡田資のような男だったのでしょうね。古き良き日本の男。
「生きる力」でもなく、「死なない力」でもなく、「死ぬ力」というのは、現代ではほとんど無価値となってしまっています。
命より大切なモノがある…言葉としては簡単に言えますが、実際私たちには命をかけて守る「他者(モノ)」があるのでしょうか。
戦後の教育は「何よりも自分の命が大事」と教えてきました。もちろんそこにはアメリカの意図も含まれているでしょうが、それだけでなく、日本人自身も結局「自己保身」の道を自ら選んだような気もします。
その結果がこの世の中であり、私たちは「明日へ遺すべきモノ」を何も持たず死んでいくことになっています。
本当にそれで良いのか…この映画はそんなことを考えさせてくれました。
単純に戦中、戦前に戻れと言っているわけではありません。まずは、私たちの先祖らが正しいと思って行動したその事実をしっかり自分の中にも認めるべきだと言っているのです。
頭から否定したり、無視したり、卑下したりするのは間違いだということです。
いつも書いているように、私たち現代日本人は「近過去」のことを知らなすぎです。知らされなさすぎです。私たちを形作っている「近過去」を知らずして、どうして今と未来の自画像を描けるでしょうか。
今まだその「近過去」を生きた方々はご存命です。しかし、もうあと数十年でその「近過去」は「過去」となり、「歴史」となってしまいます。私はなんとなく焦りを持っています。
おそらく安倍総理も同様なのでしょう。安倍さんはそれこそ命がけで何かを貫こうとしています。様々な批判や妨害に合いながらも、うまくすり抜けつつ、最後は「明日への遺書」を残せる日本になるよう、今頑張っていると感じます。
もともと私は安倍さんや自民党の思想信条、政治手法に絶対的賛成の立場でありません。今でも各論的にはずいぶん合わないところがあります。
しかし、命がけでやっているなということが、たまたま比較的身近にいて強く感じるので、ならば応援しようと思っているのです。
最近、私は人の見方が変わりました。見方というか感じ方ですね。「無私」「無我」なのかどうか。本気で「世の中を良くしようと思っている」かどうか。そういうモノを直感的に捉えられるようになってきたような気がします。
この映画に強く共感(感動ではない)したのもそういうことかなと。
もう一つ、いわゆる「東京裁判」のような戦後戦犯裁判についても、その実情を知らずに、アメリカの思惑通り進んだ不公平裁判だと言い切る方も多いのですが、この映画に描かれているフェザーストン主任弁護人を代表とするアメリカ人たちも、立場を超えた一人ひとりはヒューマニズムに溢れた人間であるということが分かりますね。
いろいろな意味で公平に描かれた秀作でありました。ぜひご覧ください。
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