戦争ノスタルジーとしての高校野球
日川、力尽く 九回執念の同点、粘り及ばず…
山梨代表の日川高校が、優勝候補の大阪桐蔭高校と素晴らしい戦いをしました。結果は負けましたが、強大な敵に必死に食らいついていく姿、あるいは絶対有利と思われていた相手がある種のゲリラ戦に翻弄される姿というのは、観ていて不思議と気持ちのいいものです。
もうお気づきの方も多いと思いますし、私もブログの中に何度か書いてきましたからお読みになった方もいらっしゃるでしょう、高校野球はスポーツ、体育ではありません。
その証拠に高体連とは別組織の高野連が存在します。そして、ほとんど春と夏の甲子園は「文化」として日本に定着しています。
特に夏の甲子園は、最も暑い季節に、その時期平均気温の最も高い土地で、さらに最も暑い時間帯に、空調設備のない甲子園球場で行われるわけで、それ一つ取っても、とても学生スポーツの大会とは思えない過酷さですよね。
選手たちの体調や競技としての安全性、公平性などを考えれば、もっといい季節はいくらでもありますし、夏休みにやるにしてもドームで冷房ガンガン入れてやればいいじゃないですか。
なぜ、そうしないのか。そして、なぜ甲子園は人工芝ではなく土と草(笑)なのか。
そう、それは、日本人が甲子園の高校野球に戦争の記憶を重ねているからです。
もちろん、開催期間に、原爆の日があり、終戦の日があり、お盆があるということもあります。しかし、それ以上に戦争の記憶が「文化」として象徴されていることに注目すべきです。
このことはあんまり言う人がいないんですよ。まあ言うのは野暮なのかもしれませんが。たまに思い出してみるのもいいのではないでしょうか。
今日は一つ一つ解説はせず、思いついたものを列挙していきます。それぞれをイメージしたり、テレビで見たりしながら、懐かしんだり楽しんだりしてみてください。
・開会式の入場行進が軍隊式
・プレイボールのサイレン(サイレンで始まるスポーツってありますか?)
・負けたら終わりの背水の陣
・故郷への思い(愛県心は愛国心の縮小版)
・炎天下での過酷な戦い
・坊主頭
・汗、涙、土まみれ
・塁=陣地(盗塁は敵陣を盗むこと)
・遊撃、右翼、中堅、左翼などの言葉
・併殺、封殺、死球などの言葉
・犠牲フライ、犠牲バントなどの言葉
・吹奏楽による応援(吹奏楽は軍楽)
・コンバットマーチ
・試合後の校歌斉唱、校旗掲揚(国家・国旗の縮小版)
・甲子園の土の持ち帰り(遺骨収集)
・朝日新聞の「旭日旗」
その他にもいろいろ出てきそうですが、思いついたものはこんな感じでしょうか。
つまり簡単に言えば、「国」を代表する坊主頭の陸軍少年兵たちの南方での過酷な戦いがそこにあるんですよ。
もともと野球というのは特殊な競技です。集団競技のようで個人対決ですしね。一人一人名乗って勝負するわけですから、なんか武士道にも通じます。
もともとが一人ひとりが相手陣地に乗り込んでいって、敵陣を占拠して本陣に帰ってくるという競技ですし、インプレイ時間は少なくほとんどが「作戦」を考える時間という所も戦争と類似性、親和性が高い。
そのせいか、一人ひとりの兵隊よりも采配を振るう将の力に依る部分も大きい競技ですよね。
それから、これは言っておかなければならない。
最後の朝日新聞の「旭日旗」にも象徴されていますがね、戦後教育界に跋扈してきた日教組などの左翼的な思想、戦争忌避、平和志向とは、全然反対なことを甲子園では後生大事にやってきたのです。そこが面白いところでしょう。
しかし、誰もつっこまない。それが「日本文化」なんです。そういう意識の下層に流れる、矛盾をも含んだ、ある種霊的な、決して科学的ではない、唯物的ではない「何か」こそが文化なのです。
いつも書いているように、culture とは cultivate から発した言葉です。掘り返して耕して初めて見えてくるモノであって、コトの集積たる civilization(文明)とは違うのです。
さて、甲子園も後半戦に入っていきます。皆さんもお盆に故郷に帰って、こんなような時間軸のノスタルジーを感じながら応援なさってみてはいかがでしょうか。
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