麻生発言という「教材」
麻生さんの「ナチス発言」が問題になっています。
これは「国語」の教材に使えそうです。読解、そして表現、リテラシー。
教材という喩えも不適当でしょうかね(笑)。いや、やっぱりちゃんと聞いたり、読んだりしないと。テストみたいな気持ちで臨まないと…大切なことなのですから。
結論から言えば、やはりこれは麻生さんの「失言」だったと思います。問題はどういう意味で失言だったのかということです。
これは生徒に考えさせたい。非常にいい教材です。
ちなみに、「ナチスを肯定するなんてとんでもない」とか「国民の知らないうちに憲法を変えてしまえなんていうのはとんでもない」という答えは不正解です。
ただ難しいのは、そうセンター試験をはじめとする多くの入試問題がそうであるように、「全文」を読む(聞く)ことが非常に難しいということです。
いわば、問題文の切り取りに出題者の「意図」が大きく反映してしまうということですね。
それでもなるべく多くの「一次情報」を得るよう努力したいですね。生徒にも問題文を全部読まないヤツがたくさんいます。めんどくさいからでしょうね(笑)。
まず、これを聞きましょう。テレビ朝日のニュース番組から(ちなみに「全文」ではありません)。
続いて、この騒ぎを「意図的に」起こした張本人の一人朝日新聞がのちに出した「発言の要旨」を読んでみましょう(ソースはこちら)。上の動画(音声)と書き起こした下の文の、切り取り方の違い、そして、各文の微妙な言い回しの違いを確認しましょう(同じ「朝日」なのですが…苦笑)。
(以下コピペ)
僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。
そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。
私どもは、周りに置かれている状況は、極めて厳しい状況になっていると認識していますから、それなりに予算で対応しておりますし、事実、若い人の意識は、今回の世論調査でも、20代、30代の方が、極めて前向き。一番足りないのは50代、60代。ここに一番多いけど。ここが一番問題なんです。私らから言ったら。なんとなくいい思いをした世代。バブルの時代でいい思いをした世代が、ところが、今の20代、30代は、バブルでいい思いなんて一つもしていないですから。記憶あるときから就職難。記憶のあるときから不況ですよ。
この人たちの方が、よほどしゃべっていて現実的。50代、60代、一番頼りないと思う。しゃべっていて。おれたちの世代になると、戦前、戦後の不況を知っているから、結構しゃべる。しかし、そうじゃない。
しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは(自民党憲法改正草案を)作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。
そのときに喧々諤々(けんけんがくがく)、やりあった。30人いようと、40人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、30代の若い当選2回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。何回か参加してそう思いました。
ぜひ、そういう中で作られた。ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。
靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。騒ぎにするのがおかしいんだって。静かに、お国のために命を投げ出してくれた人に対して、敬意と感謝の念を払わない方がおかしい。静かに、きちっとお参りすればいい。
何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。いろんな日がある。大祭の日だってある。8月15日だけに限っていくから、また話が込み入る。日露戦争に勝った日でも行けって。といったおかげで、えらい物議をかもしたこともありますが。
僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。
昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。
わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。
(コピペ終了)
続いて、麻生擁護派の切り取り方と模範解答を聞いてみましょう。
ある意味、本当に勉強になりますね。どうやって、「失言」が生まれるのか。あるいは作られるのか。
特に、皆さん最初の動画でお聞きになって分かるとおり、「あの手口学んだらどうか」のあと、聴衆が笑っているんですよね。「笑い」は文章には表現されませんから、よりこの「問題」は難しい。
はっきり言って、これはいい「教材」ではありますが、いい「問題」ではありません。
つまり、まず一次資料としての麻生さんの発言が決して名文ではないということ。真意が汲み取りにくい。ナチスを肯定しているとはとても読めませんが、しかし、問題の「手本」発言の部分は、あまりに微妙過ぎる。「反面教師」として学ぶという意味なのか、それとも反語的なブラックジョークなのか。
そして、それをその場の聴衆がどう捉えたか、いやそれ以前に聴衆が「一般」ではないということも問題ですね。聴衆がどういう思想を持ち、どういう話を期待し、ジョークをどれくらい理解できる層なのかということが分からない。
さらに、出題者の意図によって、文章の切り取り方、組み合わせ方が違っている。
これでは公平な試験とは言えませんね。
ですから、この「問題」の正解というのは、いくらでも正解を捏造できるということこそが問題だということなのです。
そして、そういう「一次資料」を提供してしまったという意味で、これは間違いなく麻生さんの「失言」なのです。
一国の大臣、それも総理経験者なのですから、やはり発言には気をつけなくてはいけない。
私のこのブログのように、あえて灰色…いや玉虫色に発言して、逆に「問題」を捏造できないほどにカオスにしてしまうという作戦もありますが(笑)。政治家じゃ、それは通用しないか。
とりあえずマジで「教材」として使ってみます。子どもたちにとっては、ニュースや新聞に「意図」があるということを学ぶだけでも価値がありますよね。
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コメント
ものすごく分かりやすくて面白い記事でした。
聴衆の「笑い」がもたらす意味、すごく大事だなぁと。
その聴衆がいわゆる「一般」ではないという問題も、
どれだけその「ジョーク」を理解できる階層なのかという問題も。
そうした聴衆の「笑い」の中で気持ちよさそうに話している麻生さんの真意とは。
問題が非常に複層的で面白い。
この複層的状況にピントを合わせている記事はここが初めてでした。
中学生はおろか、高校生、大学生、社会人…みんなが考えていい問題ですし、なかなか考え出したら難しい問題です。
かつ、これなら生徒も喜んで飛びつくでしょう!
パニックに陥りそうでもありますが(笑)
是非とも実施後の報告、ご感想をお待ちしております。
山口先生に鍛えられてきた中学生がどこまで突っ込んでとらえられるのか、興味津々です。
投稿: すずき | 2013.08.03 11:33