甲信鉄道
また、昔の話。明治20年頃の富士山麓のお話です。どうも夏というのはノスタルジーの季節ですな。
先日、甲府に行ったついでに御坂の山梨県立博物館に寄って来ました。
今、博物館では「山梨の近代人物と鉄道展」が開催されています。
山梨は「鉄道王」根津嘉一郎や阪急電鉄を創立したあの小林一三、さらに甲武鉄道の雨宮敬次郎など、日本の鉄道史に名を残す実業家が多くいます。そういう意味では「鉄道王国山梨」とも言えますでしょうか。
とは言え、ご存知のとおり山梨はまさに「山成し」で、甲府盆地以外は急峻な山地がほとんどで、鉄道にとっては非常に悪条件の土地であるのも事実です。
まあ、その結果、鉄道事業は大事業となって彼らが名を残したとも言えますし、逆にそういう山間地を逃れて関東や関西の平野部で事業を起こしたとも言えますね。
今回の展示、まあ夏休みの子どもたち対象という意味合いもあるのでしかたないのですが、どうしても「まじめな」博物館的な部分は少なくなってしまったという印象です。
鉄道マニア(鉄ちゃん)にはたまらないであろう展示物や鉄道模型、ジオラマ、さらにはなっちゃってリニアモーターカーなどもあって、40年前までいちおう鉄道ファンだった私もそれなりに萌えましたけどね。
さて、そんな展示の中で私の興味は「甲信鉄道」に集中しました。ウワサには聞いていましたが、実際にその建設計画に関わる資料を見ると、これはホント驚きでしたね。こりゃあたしかに認可が下りないわ。
「甲信鉄道」とは、初代甲府市長の若尾逸平と大隈重信が計画した、御殿場と松本を結ぶ鉄道です。
富士山南東麓の御殿場は当時は東海道線の駅でした(丹那トンネルはまだなかった)。そこから山中湖の籠坂峠を越え、梨ヶ原を通って吉田へ。そこからさらに西進して、我が村鳴沢村を通過して青木ヶ原樹海を抜け、西湖の西岸根場(ねんば)から北進。御坂山塊の鍵掛峠を越えて芦川の渓谷を下って市川大門へ。そこから盆地を北上して甲府へ。そこからは今の中央本線とほぼ同じ経路で長野へ向かいます。
これって、言葉で書けば簡単ですけど、地元の人なら分かりますよね、めっちゃ大変なコースです。今、車で越えるのも大変な峠がいくつかあります。
まず籠坂峠。今でこそ東富士五湖道路の籠坂トンネルがありますが、国道138号線のあの峠道を鉄道が登って越えるのは普通に考えて無理ですよね。
それからなんと言っても鍵掛峠。これは無理ですよ。計画では2600メートル級のトンネルを掘るつもりだったようです。計画が出されたのが明治20年のことですから、全国探してもまだそんなに長いトンネルはなかった。なんというか、壮大な夢というかロマンというか、無謀な妄想というか…。
さらに芦川渓谷も行ったことがある方からすると、あそこに鉄道?というような秘境ですよね。秘境マニアの私でも夜なんかけっこう怖い。どうもあそこをアプト式(歯車式)の鉄道で登り下りしようとしたようです。無謀だ。
早稲田大学に、大隈重信関連の資料として「甲信鉄道線路実測縦断面図」というのがあります。これはネットで見られます。こちらからどうぞ。
理論的には可能かもしれませんが、そこまでして鉄道を通す意味があったかどうか。国が認可しなかったのも分かります。
しかし、大隈重信や若尾逸平という歴史に名を残した偉人たちが本気で考えていたという事実にも注目すべきですね。
男のロマンですよ。無理や無駄を承知で突っ走る。あの時代はそんな時代だったのでしょう。
しかし、もしこの鉄道が実現していたら、今の富士北麓はかなり違った状況になっていたでしょう。我が村にも鉄道の駅があったでしょうし、静岡側からもっと文化が流入していたでしょうし、逆に横浜などに人が出て行った可能性があります。
ちょっとそんなことを想像していみるのも面白いですね。
ちなみに私は今、近代の鉄道王たち以上に無謀とも言える鉄道計画を練っているところです。今その詳細を述べると一笑に付されてしまいそうなので、まだナイショにしておきます(笑)。
いや、けっこう本気なんですよ。ある意味若尾と大隈の夢を現代に蘇らせるとも言えます。私の一生の事業の一つとなるかもしれません。
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