「風立ちぬ」は期待できるか…
夜、BSプレミアムで久しぶりに「男はつらいよ 純情篇」を観ました。これもまた「古き良き日本」であるし、ある意味「男らしい男」なのかなあと思いながら、笑って泣かせていただきました。
さてさて、映画と言えば…昨日の討論にも登場しました宮崎駿さんの新作アニメ映画「風立ちぬ」、もうすぐ公開ですね。
私は、宮崎アニメを特に愛する者ではありません。しかし、自分の子どもたちを観察していても、やはりこの人の作品の日本人への影響力というのは看過できないものがあると感じています。
それはちょうど光村図書の国語教科書のような存在ですね。ほとんど全ての子どもたち(未来の大人たち)が濃厚に経験し共有する「文化」です。
それぞれその思想や内容が正しいかどうかは別として、光村教科書が「古き良き日本」と「古き悪しき日本」を語るのと、宮崎アニメが「新しき良き世界」と「新しき悪しき世界」を語るのは実は非常に似ていると感じます。
もちろん、光村が未来を、宮崎が過去を描くこともありますが、それぞれ擬似未来、擬似過去という感じですよね。
そう、単純な世界観の方から見ると、ともに「左翼的」な臭いがするとも言えるでしょうか。しかし、実際のところそんなにシンプルには語れません。
たしかに、日教組の戦後教育の中で光村が果たした役割は大きいけれども、しかし、一方で国語教育界は異常とも言えるほどに保守的、懐古的である部分もあります。また、宮崎駿の精神性はたしかに高畑勲らとともに労働運動の中で育ったけれども、しかし、一方で「超」日本的であるとも言えます。
そう、この前もどこかに書きましたね、日本共産党は共産党ではないと。あくまで「日本」共産党であると。非常に日本的、それこそ超国家的に日本なのであります(笑)。それと同じ。
ただ、光村とジブリ双方で気になるのは、父性の欠如ですね。父親の存在感が薄い。宮崎アニメなんか、お父さんにはなぜかシロウト声優を使ったりする。日常の中に父性を埋没させようとしている。
逆に女性は妙に活躍する…というか、ほとんど幼女と老婆が世界を動かていますよね(笑)。かと言って、単純なフェミニズムでもない。峰不二子のような妖艶な女性性はやはり排除されている。ある意味異様な世界ですよ。
そうそう、今回の「風立ちぬ」の堀越二郎役には、なななんと、庵野秀明監督というシロウトが声優として雇われている!これは…いったい(笑)。そして、はたして二郎の父親は出てくるのか?
今回ですね、そもそも堀越二郎が主役というのが衝撃でしたね。実在の男、それも零戦の設計者。もちろん、兵器マニアだった山口少年(ワタクシ)にとってはカリスマとして記憶されている男です。
はたして、ありがちな反戦映画となってしまうのか。それとも「日本の男」を描ききれるのか。これは楽しみでもあります。
宮崎監督、インタビューなどでは、時代が動いている、ファンタジーからリアリズムへと語っていますが、どうなんでしょうか。反宮崎の急先鋒であり、かつリアリストである押井守は、「風立ちぬ」の試写を観て、あまりのエロスにかなり衝撃を受けたそうです。これは面白そうですね(笑)。
今までも、宮崎監督は充分にエロスであったわけですが、それをリアルに表現してしまうとなると、これはもう間違いなく光村の国語教科書的世界ではなくなってしまいます。
そこで、子どもや大人(親)がどう狼狽、赤面するか…そこがおそらく老人の新しい狙い(欲望)なのでありましょう。
ところでところで、最近の私はですね、光村や(今までの)宮崎の価値観や、ある種左翼的(日教組的)な思想は、子ども時代には、それこそ理想論、ファンタジーとしては意味のあるものなのではないかと思うようになってきたんですね。
要はそのまま大人になっちゃうのが困るわけですよ。そうした理想論を前提に、現実の難しさ複雑さを乗り越えていく術を身につけなければならない、そういう大人の育つ土壌が日本には足りないのではないかというところに危惧を抱くようになってきました。
違う言い方をするならば、戦後ある勢力にとことん否定されながらも、なかなかなくならなかったいわゆる左翼的な思想というものは、実はそれこそが非常に日本的な共同体主義や自然観に根ざしたものであって、子どもたちはそこに無意識的に共感し、また大人も妙にノスタルジーを感じているのではないかということです。
…と、いろいろとっ散らかして書きましたが、今回の「風立ちぬ」は久しぶりに劇場で観てみようかなと思わせる問題作のようです。
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