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2013.07.24

エルトン・ジョン 『Your Song(僕の歌は君の歌)』

 BS-TBSの「SONG TO SOUL~永遠の一曲~」で「Your Song」の回が再放送されていたのを観ました。
 私も本当にいろいろな音楽を何万曲と聴いて来ましたが、その中から1曲選べと言われたら…これは誰にとっても非常に難しいと思います…どうでしょうか、もしかするとこの曲を選ぶかもしれない。
 エルトン・ジョンが特に好きでもないし、それほど聴いて来てはいない私。しかし、この歌は何度聴いても常に同じレベルで感動できます。最初に聴いた時(いつだったのでしょう。たぶん小学生の時ですね)と全く同じ感覚で聴ける。
 ロックにしても、バロックにしても、ジャズにしても、やはりどんな曲でも「飽きる」ということがありますし、逆に「再発見する」ということが多い。けれどもこの曲は違うのです。
 まるで星空や花々や猫や富士山のようですね。すなわち自然。
 もう最初からそこにあったような感じ。実際、エルトンはこの曲を10分くらいで作り上げてしまったとか。
 そう、作ったのではないのでしょうね。降りてきたのでしょう。見つけたというか。
 彼自身、この曲を超えるラヴ・ソングはその後作れなかったと言っています。作ろうとしても作れないのでしょう。
 もちろん、バーニー・トーピンの素朴な歌詞にインスパイアされたということもあったに違いありません。
 この番組で再確認したのですが、天才肌と思われがちなエルトンは、実はけっこう人から影響を受けて進化するタイプなのですよね。特に若い時は謙虚なアーティストであったようです。「ナイト」になってからはどうか知りませんけれど。
 さて、この曲ですが、なにしろ私もずっと絶えることなく聴いて来ましたから、いろいろな思い出が乗っかっています。青春時代の甘酸っぱい(?)思い出から最近の苦い思い出まで、まあこれほどいろいろなシーンが乗っかる曲もありませんね。
 ちなみに、先ほど「自然」と書きましたけれども、実際のところ音楽的には不自然な面も多々あるんですよ。
 まずベースラインを聴いていただきたい。いきなり破格です。コード進行は一見、トニック→サブドミナント→ドミナントという王道になっていますが、ドミナントが転回しているので、なんとも不安定で切ない響きになってます。
 すなわち、わかりやすくハ長調で記すなら、ベースラインがド→ファ→シ(→ミ→ラ)と動いているのです。ファからシに下がるというのは、ちょっと難しく言えば減5度下がるということです。この音程の跳躍というのは、西洋音楽の世界では(というかワールドミュージック全般に言えるかもしれませんが)、「気持ち悪い」「不安定」「緊張」という感覚を伴います。
 もちろん、その性質を活かして、特に短調の曲のメロディーの中で効果的に使うことはよくあります。しかし、長調の楽曲の冒頭からいきなりそういう進行をするという他の曲を、私は寡聞にして知りません。
 その後もベースラインをおっかけつつコードを確認していくと、何箇所も面白い部分があります。先ほどの減5度下降はサビでも出てきますね。てか、サビがドミナントの転回形で始まる曲というのも珍しいよなあ。
 例の「胸キュン進行」もちゃんと出てくるわけですが、そのあとの動きが面白い。同じくハ長調で書くなら、胸キュンでソがソの♯になったあと、まあ当然のごとくラに進む。そこからが意外と言えば意外、ド→レ→ファ→ソと進む。ここのベースラインは見方によってはペンタトニック・スケールになっていて、この曲の特徴的な穏やかさ、懐かしさを演出していると思います。
 エルトンはクラシックをしっかり勉強した人ですから、当然そういうテクニックを駆使している部分もありますけれども、そこに降り注いだもっとプリミティヴな感覚というかなあ、それらが見事に調和していると感じますね。
 作曲家にとって案外和音って転回させるのが難しいんですよ。ベースがウォーキングあるいはランニングしている中で、必然的に現れる転回ではなくて、バーン!というのは。この曲では何ヶ所かそういう奇跡的な転回を聴くことができます。
 そういう意味では、ベースライン(すなわちコード進行になるわけですが)が、ちょっと肩透かしを食らわせたり、あるいはそっけなく裏切ったりしているはずなのに、しかし、なぜか自然で懐かしい。これはなんなのでしょうね。
 今日の番組ではエルトン自身によるプロトタイプ(デモテープ)を聴くことができました。コードが少し違う部分もありましたし、メロディーも多少違うところもありましたが、基本的な部分ではすでに完成形という感じでしたね。
 しかし、そこに多くの才能が集まり、プロデューサーやアレンジャーやコーディネーターやプレイヤーたちが知恵を出し合い、この作品が完成した。
 たしかにアレンジも非の打ち所がありませんね。特に控えめなストリングス、ウッドベースは効果的だと感じます。
 ほとんど奇跡に違いですね。この曲を聴ける時代に生まれてよかったと、つくづく思います。
 最後にごく最近のユア・ソングを聴いてみましょう。前半のエルトンの弾き語り部分では、前述の魅力が見事に半減されています(笑)。それがまた効果的と言えば効果的。後半は基本を変えずストレートに来ていますからね。これもまたいいなあ…。

SONG TO SOUL~永遠の一曲~ 公式

Amazon 僕の歌は君の歌

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