『森林飽和−国土の変貌を考える』 太田猛彦 (NHKブックス)
法事がありまして、急遽家族で秋田に行っておりました。
富士山から秋田まで、多くの山々をぬって車で走らせました。この本を読んでいたので、いかに日本の森が豊かであり手入れが行き届いているかを痛感しながらの旅。
私たちはこの緑を破壊してはいけない…いや、ちょっと待てよ。
日本の原風景と言われる「里山」は数十年前までは、実は「はげ山」だった!?
今、日本の森林は豊かに増えすぎて、いわば「飽和状態」である!?
山の国、山梨(山成し・山為し)に住んでいる関係で、恩賜林の歴史や、治山、砂防、治水の歴史などをちょっと調べたこともありましたら、ある程度のイメージはできていたのですが、ある時期ここまで荒廃していたとは、ちょっとショックでした。
この本には、明治の末の(この前豊かな緑の中で座禅した向嶽寺のある)塩山市付近の写真や、戦後すぐの十和田市の写真などが掲載されています。それは本当に「はげ山」。松が1本ちょこんと生えている、いわば波平さんの頭のような写真です。
そう、ちょうど私の頭が剃髪によってツルツルになっているように、当時は伐採が進み、とにかく人のいる近くの山は全てはげ山になっていたんですね。
それが、戦後数十年で一気に回復し、今や逆に飽和状態になりつつあると。
江戸時代など、私たちのイメージとしては今よりもずっと緑が豊富だったような気がしますが、実はこの前の富嶽三十六景がそうであったように、街道沿いの山なんかみんな「はげ山」だった。なるほど、木々を全部描くのが面倒だったという「印象派」的な表現ではなく、実はあれが「写実」だったわけですね。なるほど。
そう言えば、この前の「コモンズ学会」でも、世界中の研究者が「日本の豊かな森」に驚いていました。なぜ東京のすぐ隣にこんな豊かな森林があるのかと。
ではなぜ、世界でも異常なほどに森林の豊かな国になったのか。それはこの本を読めば分かります。もちろん、日本人らしい思想や哲学、宗教観や真面目さというものが影響しているのはたしかです。
しかし、実は素晴らしいことばかりではありません。怪我の功名もあったし、管理しきれないために森林が暴発している状況もあります。
とりあえず、そうした「事実」を知れるだけでも、この本は価値があります。森林神話を一度崩壊させることも必要なのです。
また、森と水との関係、森と災害との関係、里山や海岸林の実態など、私の知らないことが満載でした。本当にイメージだけでいろいろ生徒に語っていたなあと反省させられました。
秋田の帰りにカミさんの生まれ育った山間の部落を訪れました。美しい棚田、手入れされた里山、溜池に咲く美しい蓮の花に見とれました。夜にはきっと蛍が乱舞することでしょう。
しかし、これは森林と人間の関係において、ある意味ギリギリの状況でもあります。数年後には人の管理を離れ、一気に荒廃…いや逆かもしれない…飽和状態に突き進むかもしれません。
そうした人間と自然とのある種のせめぎ合いが「文化」なのかもなあと思いました。cultureはご存知のとおり「cultivate」からの派生語です。
そして、「文化」と「自然」はもしかすると相反するものなのかなあとも思いました。
この本を読むと、日常の「自然」がまた違って見えてきます。ご一読をおススメします。
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