もう一つの富士山(その2)昭和17年の吉田口登山者は20万人
今日、今年の吉田口登山者が過去最速で10万人を超えたというニュースがありました。このペースだと軽く20万人を超えそうですね。そして過去最多を記録しそうです。
先日、「もう一つの富士山(その1)」の冒頭に書きましたとおり、今までで富士山吉田口の登山者数が最も多かったのは昨年ではなく、なんと昭和17年でした。
これはいったいどういうことなのでしょう。今日はその本質に迫ろうと思います。
その1には昭和13年の防共盟邦親善富士登山について書きました。富士山が共産主義を防ぐ壁だと捉えられていたことが分かりましたね。現代の私たちからすると想像できないことではないでしょうか。
たしかに富士山は日本の象徴というイメージがあります。しかし、具体的に日本の「何」の象徴なのかというと、これはなかなか皆さん答えられないのでは。
ちょっと話がそれますが、「象徴」ということで言えば、天皇の存在というのは富士山に近いモノがあると思いますね。
はっきり言葉で言えないけれど、たしかに「象徴」のような気がする。なんとなく拠り所のような気がする。実際に仰ぐとなんとも神聖な気持ちになる。
だから、天皇制反対と言ってる人たちを見ると、富士山反対と言っているように感じられる(笑)。そりゃ無理でしょということになりますよね。
そうそう、ちなみに米軍は日本人の士気を削ぐために富士山を赤く塗ってしまおうという作戦を立てたと言われています(本当かどうかは分かりませんが)。
アメリカが「赤」というのもおかしいと言えばおかしいけれども、まあたしかに「防共」の象徴が真っ赤になっちゃったら、ガーンですよねえ(笑)。
実際のところ、防共ということでいえば、もともと日本は米英と手を組んでいたわけですよね。しかし、大東亜戦争はなんだか妙な形で始まってしまった。そのへんについてはかなり難しいのでここでは割愛します。
しかし、結果として「防共」の象徴であったはずの富士山は、次第に違う象徴になっていきました。
つまり、「防共」の象徴としての色彩は薄くなっていった。そして、「皇国」の象徴となっていった。
そう、外地においては「望郷」の象徴となっていったというのもありますね。そう、戦地の「◯◯富士」がどんどん増えていった事実がそれを物語っています。
これは皮肉と言えば皮肉です。
古代、富士山は縄文の象徴だった。それで奈良時代には中央の弥生文化からは無視された。意図的に無視したわけです。だから記紀には富士山は出てきません。あまりに不自然です。
そして、平安になると「恋の象徴」として歌に詠まれるのをいい例に、中央からこれも意図的に世俗化されます。懐柔策と言えば懐柔策ですが、弱体化、無力化とも言えるでしょう。
そうしてある意味天皇制からは距離を置かれたわけですね。
しかし、これも皮肉ですが、中世近世にかけての天皇の無力化の結果、共通した「潜在的象徴性」を帯びるに至った。
それが大東亜戦争で露出してきたわけですね。面白い歴史のシナリオだと思います。
で、昭和17年、「防共」の象徴が「天皇中心の日本国」の象徴に正式に格上げされたわけです。つまり、「国威発揚」のための富士登山が国家によって奨励されたのではないかと思うのです。
実は、このへんに関しては資料も少なく、また研究している方もあまりいないので、はっきりしたことは分かりません。私も今後調べてみるつもりです。
おととい話題に出た「二・二六事件」があった昭和11年、富士山は国立公園に指定されました。そして、一方では陸軍によって北富士の演習場が作られます。
この頃になると富士急行も東京から富士吉田までの直通電車も運行していたはずです。きっと全国から多くの登山者が「皇国の必勝」を祈る登山のために集まってきたことでしょう。
男137,413人、女63,165人。確認しておきますが、この頃はスバルラインなんかありませんから、みんな麓から登ったのです。
今年おそらくこの記録を塗り替えることになると思いますが、昭和17年当時の富士登山の意味合いは、5合目からの登山がほとんど現在とは全く違うということを確認しなければなりません。
今年、富士山は世界文化遺産となりました。だからこそ「文化」とは何かを考えさせられます。この昭和17年の富士山も一つの「文化」でありましょう。ユネスコはもちろん、我々日本人、特に地元の我々でさえもほとんど忘れてしまっている近過去の「文化」です。
これを機に、そんな近過去のことも思い出してみてはいかがでしょうか。
その3は戦後の秘話に行きましょう。お楽しみに。
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