もう一つの富士山(その1)昭和13年「防共盟邦親善富士登山」
夏休み、富士登山のシーズン真っ只中ということで、ちょっと面白いシリーズを書きましょうか。
世界文化遺産になった富士山ですが、実は「文化」ということでは、皆さんのイメージとは全く違う一面もあるということも知っていただきたい。
まさに富士山は日本の象徴、日本の宝、世界の宝です。しかし、その「象徴」も「宝」も、時代が違えばその意味はずいぶんと変わってきます。
今回は、ほとんど現代から無視されている「近過去」の富士山について書きます。何回かの連続記事になるでしょう。
この話は今にもつながっています。非常にリアルな今にです。その「今」については、今はさすがに書けないかもしれませんが、そこに至る道筋は記録に残しておきます。
まずは、全く意外な事実から話を始めましょうか。私の興味もここからスタートしましたので。
皆さんは、富士山の登山者が一番多かったのは平成何年か知ってますか?
富士山全体での登山者数としては平成22年の約32万人が最多です。23年は震災のため減少しましたが、24年には再び32万人に到達しようかという数にまで戻りました。
ちなみに吉田口の登山者数は昨年平成24年が最多で19万人弱です。今年は当然20万人を超えて史上最多になるでしょうね。
…と、ここまでの話だと、皆さんは吉田口の登山者数の最多は当然平成24年だと思いますよね。私もそう思っていました。
しかし!ここで驚愕の事実が判明したのです。
な、なんと、吉田口登山者数の最多は昨年ではなく、なななんと、昭和17年だったのです!
えっ?戦中?当然スバルラインなんかありませんから、みんな麓から頂上まで登ったってことですか?
実はそうなんです。たしかな数字が残っています。
昭和17年 吉田口からの富士登山者…男137,413人、女63,165人(合わせて20万人以上)
これは恐るべき事実です。男性のみならず女性もこんなに登っている。
それまではだいたい3万人から5万人くらいで推移していたものが、昭和15年に10万人の大台に乗り、そして17年にピークを迎える。昭和18年以降はまた急減してその後漸増を続けて昨年の19万人に達しました。
はたして、昭和17年に何があったのでしょうか。これについて語っている人はいません。資料も少ない。
そこで私は得意の想像力をはばたかせて次のような結論に至りました。
まず、この事実を確認しておきましょう。昭和13年のことです。
昭和13年「防共盟邦親善富士登山」。日独伊に4カ国を加えた7カ国の代表者たちが富士登山をしています。その時の吉田の町の熱狂の様子は、かの写真家土門拳によって撮影されています。
「防共盟邦」ってなんでしょう。昭和11年日独防共協定が、そして12年には日独伊防共協定が結ばれています。それが昭和15年の日独伊三国同盟につながっていきます。
「防共」とはまさに「共産主義を防ぐ」ということ。反ソ、反共の姿勢で一致した国々の集まりが「防共盟邦」ということになりますね。
それが、富士山に親善登山している。つまり、富士山は「防共」「反共」の象徴としてとらえられていたのです。
実際、登山した各国人は、9合目でご来光を仰ぎ、ともに共産主義と闘うことを決意し、天皇陛下万歳を唱えたと言います。
当時の資料に次の一節があります。
(1938年)7月17日・18日 盟邦親善富士登山
響け 世紀の万歳!霊峰富士の黎明に翻る防共七ヶ国旗
「日出づる国の御来迎は東天を真紅に染めて、はるか雲海は金色の波と輝く。この時、七カ国旗は腕も千切れよ。とうち振られ、若き防共国民の雄叫びは、世界の隅々にまでひびくばかり」
その後、昭和16年まで親善登山が続いたことは確かめています。
そして昭和17年を迎えるわけです。長くなりそうなので、続きはその2に(いつになるか分かりませんが)。
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