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2013.06.04

コモンズ学は未来を変えるか

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 日から、私の職場のある富士吉田市において「国際コモンズ学会第14回世界大会(北富士大会)」が開催されています。
 世界中からノーベル賞受賞者をはじめとする約420人の研究者が大集合して、「コモンズ」について発表・協議をしております。
 「コモンズ」とは何か。聞きなれない言葉ですよね。ホームページにはこう書いてあります。

 一般的に、ある資源あるいは自然のなかのある場所を、複数の人びとが利用するとき、その資源や場所は「コモンズ(commons)」と呼ばれます。また、資源や場所を共同で管理する組織や社会的仕組みそのものをコモンズと呼ぶこともあります。

 なるほど、なんとなく分かる気がしますね。実はここ富士北麓には特殊なコモンズが存在します。それが、「入会(いりあい)地」です。「入会制度」や「入会権」についても説明し始めると、これはとても大変なことになります(私もそのほんの一部しか理解していません)。
20130605_121015 超簡単に言えば、「入会地」とは、村や部落などの村落共同体で総有した土地のことを言います。
 もちろん日本中に「入会地」はありますが、地租改正、恩賜林や県有地、さらに米軍基地から自衛隊の演習場の問題などが複雑怪奇に(?)絡み合って、非常にきわどいパワーバランスで成り立っている「入会地」は、ここ富士北麓くらいしかないでしょう。
 まあ、そんなわけで、非常に特殊な「コモンズ」があるということで、それでここが国際大会の場に選ばれたということですね。
 実は、国際コモンズ学会の初代会長さんであるエリノア・オストロム教授は、この北富士の入会制度を取り上げた論文で、2009年のノーベル経済学賞を受賞しています。
 本当のことを言うと、私はもちろん、当地の入会関係者のほとんども、その事実(ノーベル賞受賞論文に自分たちが取り上げられていること)を知りませんでした(笑)。
 まあ、生活の一部として、非常に身近な存在(問題)である入会地が、そんなグローバルな視点が語られているとはなかなか想像しがたいですよね。しかたありません。
 で、いろいろあってその事実が知られることになって、当国際大会を恩賜林組合が中心になって誘致したということのようです。
 私有でもなく、公有でもない。しかし、今までの共有の概念とも違うし、「総有」という言葉でも表しきれない(と私は思います)「コモンズ」が、もしかすると、これからの世界の財産の所有形態を模索するよきヒントになるのではないか。そういう期待が高まっています。
 なぜなら、コモンズ学は、コモンズ自体が持つ矛盾を克服するところから始まっているからです。その矛盾とは、「コモンズには非排除性と競合性がある」「コモンズの自由がコモンズを破壊する」というような性質のことです。簡単に言えば、自由だからこそ競争が起きて「コモン性」が失われるということでしょうかね。
 私の狭い知識からしますと、この「コモンズ」の抱える矛盾こそが、人類の理想と現実の葛藤そのものを象徴していると感じられます。その具体的な解決策を、さまざまな学問領域を横断し統合することによって解決していこうとするのは、非常に良いことだと思います(大変難しいでしょうが)。
 さらに、今回の北富士大会は、研究者だけでなく、実際に入会の権利者たちが多数参加するということで、より現実的な矛盾が学問世界に突きつけられることになるでしょうから、ある意味画期的なことだと思います。興味津々ですね。
20130605_120952 さて、この大会は基本専門家によるセッションが中心なのですが、今日は市民も参加できるいくつかの講演などがあったので、ちょっと顔を出して来ました。
 まず、我が国の入会権研究の第一人者中尾英俊先生による「基礎から学ぶ入会権教室」。そして臨済宗恵林寺の副住職による「禅とコモンズ」という講演。
 中尾先生の入会権教室は、いきなり現地の入会権者の代表が、それこそ市民的「権利」を主張して、さっそくコモンズの矛盾を露呈するという、なんとも象徴的な会になってしまい、それはそれで面白かった。
 古川周賢老師の「禅とコモンズ」は、まあ私としては予想内の内容ではありましたが、それでも理念(理想)としてのコモンズ的無我(?)については、皆さんによく伝わったのではないかと思います。
 夜の部(シンポジウム)にも行く予定だったのですが、懇意にさせていただいている元恩賜林組合長さんにお誘いいただいてプライベートなデート(笑)。非常に興味深いお話をうかがうことができました。
 なるほど〜。「権利」だけでなく「義務」にも注目しなければなりませんね。そうか、我々人類の矛盾の根幹には、「権利」と「義務」のせめぎ合いがあるわけで、そこをどう乗り超えるかが個人個人の課題だというわけですね。

国際コモンズ学会世界大会公式
 

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